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第214話 夢で逢えたら(6)
「手は頭の上に上げて。」穏やかな命令に、それでも和樹は従った。涼矢は和樹の膝裏を持ちあげるようにして、顔を股間に埋めた。不安に怯える和樹のペニスを口に含む。
「涼、やだ、そんなっ。」小さく縮みあがっていた和樹のペニスは、涼矢の舌に次第に大きく硬くなっていく。「や、あっ……怖い……んっ……やだって……。」和樹の声もだんだんと甘やかなものへと変わっていった。涼矢はいったんペニスを口から出して、その代わりに手で亀頭を刺激し始めた。「あっ……ああ……くっ……。」先走りが先端から溢れだす頃には、塞ぐもののない口からは喘ぎ声しか出てこなくなっていた。涼矢は亀頭を弄りながら、乳首を舌先で転がし始めた。見えない和樹にとってそれは不意打ちの刺激で「ひゃあっ」と大きな声が出た。慌てて口を閉じるが、手遅れだ。そして、すぐにまた喘いでしまう。「馬鹿、涼、そんなの……無理だって……。」やっとのことで涼矢を罵倒しても、その合間にもよがり声が混じる。「ねえ、取って、これ……涼、あっ、やだ、もうっ……。」
涼矢は亀頭責めをやめないまま、今度はローションを和樹のアナルへと注いだ。和樹の全身がビクンと弓なりにのけぞる。それは股間を強調して、より扇情的なポーズだったが和樹本人は知る由もない。「やだって、取って、目隠し、やだぁ……。」懇願する甘えた声が余計涼矢を興奮させた。和樹の願いむなしく、涼矢は指をそこに挿入する。「いやあっ……、はっ……あんっ……!!」
「和樹、可愛い。」涼矢は指で和樹の中をかき回しながら言う。
「涼、お願いだから……もうっ。」
「どうしよ、すげえ可愛い。」手でペニスとアナルを刺激しながら、口では和樹の上半身の至るところに口づけた。
「やだ、もう、無理……出ちゃうからっ。」
「もう少し、我慢して。」涼矢はアナルの指を引き抜き、亀頭の下を強く握った。
「や、抜かないでっ。」そう言った直後に、和樹は自分の放った言葉にハッとして、唇を噛んだ。
「抜くの、やなの?」涼矢が囁いた。
真っ赤な顔で和樹は首を横に振る。
「気持ちいいの? ここ?」涼矢は再び、アナルに指を入れ、和樹の前立腺を刺激する。
「あっ。」和樹はまた大きめの喘ぎ声を上げてしまう。
「気持ちいいよね?」涼矢がそこに指を出し入れすると、淫靡な水音が響いた。
「……気持ちいい。」うわごとのように和樹が言った。
「こんなになってるし。」涼矢はわざとその水音が派手に鳴るようにかきまわした。
「やめっ。」
「やめない。だって気持ちいんでしょ。こっちもガチガチだし。」涼矢はペニスのほうもぎゅっと握った。
「ひぁ……あんっ。」和樹は身をよじって悶えた。「も……無理。イキたい。」
「いいよ。」涼矢はペニスを握ったまま、アナルの指の動きを速めた。
「指、やだ。涼矢の。」
涼矢は指を抜いた。当然のように、指に代わってペニスがそこを貫くことを期待する和樹だったが、またその予想は覆された。アナルに触れたものは硬いペニスではなく、涼矢の舌先だった。和樹は両足を抱えあげられるようにして、アナルを舐められていた。
「ちが、涼、やっ、だめぇっ。」期待とは違っていたはずなのに、その舌の刺激は、大きな快感をもたらした。視界が遮られている分、その他の感覚は否が応でも研ぎ澄まされて、今の和樹は、まるで全身が性器でもなったかのように、その部分の感覚だけが肥大化して、その快感に飲みこまれていた。ガクガクと痙攣したように全身を震わせて、絶頂を味わった。だが、射精はしていなかった。涼矢に握られ、吐精したくとも至れなかったのだ。「あっ、ああっ、やっ涼、イク、またイクっ……!!」頭が真っ白になる。ただ快感だけが何度も何度も訪れた。
もう何も考えられなくなり、意味のある言葉も口にできず、ただ獣じみた喘ぎをするだけになった時、ようやく涼矢のペニスが入ってきた。自分から腰を揺らして、涼矢を深く求めた。ひときわ高く喘いだ瞬間に、涼矢が射精した。何度も絶頂に至ったと言うのに、結局最後まで射精していなかったことに気付いたのは、だいぶ後、放心状態の中、目隠しとベルトを外されてからのことだ。
そんな和樹の隣に涼矢は横たわり、赤子を寝かしつけるように、和樹の背中をゆっくりとしたリズムで優しく叩いていた。気怠くて眠くなりそうでありながら、まだどこか敏感なままで、背中のリズムが途切れたかと思うと強く抱き寄せられた時には、反射的に全身が硬直した。その硬直をほぐそうとしているのか、涼矢が背中を優しくさすった。
「……隣の人、今、いるのかなぁ。」だんだんと我に返ってきた和樹が口にしたのは、そんなセリフだった。
「さあ。」
「他人事だと思って。」和樹は苦笑する。「俺、声、出しまくってたよな?」
「うん。過去最大級。」
「ハア……。」和樹は涼矢の胸に、軽い頭突きでもするように額を何度か押しつけた。3、4回目にはそのまま胸にくっつけて「ああ、もう。」と唸った。涼矢と自分、双方を責める気持ちが込められているようだ。
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