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第983話  nick of time (2)

――気が進まないなら今からでも断れば? 「え? ああ、悪い、そういうんじゃない。奏多とか来るのかなって考えてた」 ――どうだろね。向こうが会いたがらないんじゃねえの。 「俺らが来るとは思ってないかも。元々は誘われてなかったんだから」 ――そっか。だったら、ありうるな。 「まあ、どっちでもいいけど」 ――珍しいな、和樹のそんな言い方。  奏多のことを考えると、のどの奥に引っかかった小骨のような不快感がある。嫌いじゃない。いい奴だと思う。涼矢とのことを打ち明けたときの態度は今思い出しても腹立たしくはあるが、仕方がないとも思う。その後の謝罪も本心だと思う。カオリ先生の件については同情もしたし、その件自体は不幸なことだったが、信頼に足る相手として涼矢や自分に相談してきたことはちょっと嬉しくもあった。でも、今奏多に抱く「友情」は、高校時代のそれとは随分と変質してしまった。同い年とは思えない、しっかり者として尊敬もしていた「部長」は、もういない。  和樹は奏多のことを頭から追い出すべく、話題を変えた。 「ピアス、して行くよな?」 ――うん。  去年していったものとは違うフープタイプのピアスは、きっと前回より目立つはずだ。だが、もう、怖くない。もしかしたら初めて二人のことを知る誰かがいるかもしれないが、構わない。「うん」と即答してくれた涼矢も同じ気持ちに違いないと、和樹は確信する。  翌日、その確信は現実となった。 「へえ、仲良くやってんだ?」  カノンがニヤニヤながら言う。視線は和樹と涼矢の耳元を交互に動いていた。 「やっぱ目立つ、かな」涼矢は照れ臭そうに言った。この期に及んで後悔しているのかと和樹は焦る。が、涼矢の続く言葉にホッとした。「これ見りゃ、いちいち説明して回る必要ないだろ」 「相変わらずバカップルですこと。そんなアピールしなくてもお腹いっぱいだっての」  更に茶化すのはエミリだ。たまたま同時期に帰省したらしい。 「ひがむなよ」 「ひがんでないってば。ああもう、和樹も帰ってきてるなんて聞いてなかった」 「聞いてたら来なかったわけ?」  和樹のへらへらした笑顔を見て、エミリはぐっと押し黙る。その代わりのようにカノンが言った。 「エミリも久しぶりなんだよ。あんたたちと同じく成人式も帰ってこなくて」 「あたしは練習があったの、練習が」 「俺だってバイトとかいろいろあったの」 「あ、バイトと言えば、あの子、えっとなんだっけ、そだ、明生。明生は元気?」 「元気だよ。つっても、塾講師バイト、この間辞めたんだけど」 「ついにクビ?」 「バーカ、んなわけねえだろ。都倉先生、大人気だったっつの」 「でしょうね、あんた外面だけはいいもんね」 「ひっでえなあ」  四人で笑い合う。カノンとエミリ。和樹と涼矢。四人でこんな風に語れるとは、あの卒業式直後の頃は思ってもみなかった。 「そこだけで盛り上がるなよ」  柳瀬が会話に入ってくる。四人と柳瀬以外のメンバーと言えば、宮野にマキといった「あまり会いたくなかった」メンバーも含めて、前回Pランドで遊んだときとほぼ同じ顔ぶれだ。今回は遊園地ではなく居酒屋で、柳瀬のバイト先だという。 「本当は三〇人ぐらいの宴会用の座敷なんだけどさ、平日だから特別。時間制限もなしで」  自分の手柄だと言わんばかりに柳瀬が言い、それに呼応するように拍手をしてみせたのは宮野だ。相変わらずのお調子者だが、せっせと皿や箸を配って回るなどして、それなりに役には立っているので誰も冷やかしたりはしない。 「とりあえずビールの人、手ぇ挙げて。あ、そうだ、酒、飲めない子いる?」  宮野の問いにカノンとマキが手を挙げた。それから涼矢も。 「おや、田崎、飲めないの?」 「飲めるけど、車だから」 「えー、居酒屋集合なんだから乗ってくるなよな」  宮野の不平はもっともだと和樹も思う。しかし、車で行こうと言ったのは和樹のほうだった。そうすればあの酔っ払った涼矢の姿を誰にも見せずに済む。 「私はまだ十代だからぁ」  頬に指を当ててわざとらしく”しな”を作っているのはマキだ。 「誕生日まだなんだ?」 「三月三十日」 「おお」  何に対する「おお」なのかは知らないが、宮野のその言葉以外の反応は誰からもない。カノンに至っては理由も言わず、私はウーロン茶お願い、とだけ言った。 「あたしもそんなに強くはないけど、乾杯ぐらいはしよっかな」  エミリのそれはカノンに向けての言葉だったが、涼矢と和樹は顔を見合わせて笑った。それに気づいたエミリが二人を睨みつける。 「おい、そこの二人。変なこと言ったら許さないからね」 「何も言ってないでしょうが」和樹が笑いながら言う。「でも、飲まないほうがいいんじゃないの、マジで」 「うっさい。これでもだいぶ強くなったんだから。特訓して」 「酒まで特訓しなくていいだろ。これだから体育会は」 「何よ、あんただってそうだったでしょ」 「元、ね。今はもう、都会のモヤシっ子だもんね、俺なんか」

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