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第222話 夢で逢えたら(14)

 2人は東京駅へと向かった。哲との待ち合わせは新幹線乗り場の改札口近くだ。倉田も同行するのかは聞いていないが、おそらく一緒に来るだろう。在来線を降りたところで、涼矢はメガネを外した。  果たして、待ち合わせ場所まで辿り着くと、そこには哲と倉田の2人の姿があった。 「おはよ。」倉田が口火を切った。「早いのに、悪いね。」 「いえ、こちらこそ切符あって助かります。自由席に並ぶ覚悟だったんで。」涼矢は棒読みに近い淡々とした口調で倉田に言う。 「そうそう、これね。切符。」倉田が差し出す。 「いくらですか。」  倉田は金額を口にした。端数の分は安く言っているようだ。涼矢はそのことに気付いたが、言われたままの金額を出した。  財布に紙幣をしまいながら、倉田が言う。「おごると言えなくて申し訳ない。そこまで高給取りではないもんだから。」 「このほうがいいです。でも、大丈夫なんですか、会社の。」 「ああ、うん。総務でまとめて買ってあるの。使わない時は金券ショップとかに売っちゃうみたい。」 「へえ。」 「だから新幹線のチケット要る時には、声かけてくれたら、用意できるかも。ビジホとかも。あ、それは必要ないか。」 「まあ、その時にはお願いします。」 「うん。」 「俺、ホームまで見送り行きますけど。」和樹が割って入った。 「俺はここでいいや。この子のこと、よろしくね。」倉田は哲の肩をポンと叩いた。考えてみたら、哲は今日まだ一言も発していない。 「体調でも悪いの?」和樹が哲に言った。哲は意外そうにピクリと眉を上げて、和樹を見た。 「大丈夫。元気だよ。」 「そんならいいけど。」和樹は涼矢のほうに向きなおった。「俺、入場券買ってくる。まだ時間あるよな?」 「うん。」涼矢の返事を聞いて、和樹は券売機のほうへと去った。 「良い子だよねぇ、彼。」倉田がその後ろ姿を見る。いつもなら哲のツッコミが入りそうなものだが、無反応だ。哲は顔色が悪いわけでもないが、生気がない。それでも元から口角の上がった口元のせいで、普段の彼を知らない人が見たなら、本人の言う通り至って元気に見えそうだ。  何かあったのか、聞くべきなのだろうか。だが、どちらにせよ、車内では2人きりになる。和樹が見送りまで来てくれている今、わざわざその話をすることもない。涼矢はそう考えて、何も言わないでいた。  和樹が戻ってくると、倉田は哲に二言三言話しかけ、哲はそれに素直にうなずいた。 「じゃな、(さとし)。」  2人が何を話していたのかは聞こえなかったが、倉田が最後に本当の読み方で(テツ)を呼ぶのだけは耳に入った。  涼矢と哲、そして和樹が改札口の中に入って行く。涼矢だけが振り返ると、倉田は軽く手を振ってきたので、軽く会釈して、また前を向く。 「席、隣だよな?」涼矢が哲に話しかけた。哲はごそごそと尻ポケットから財布を出し、そこからチケットを出した。2人のチケットを照合し、隣り合っていることを確認して、その車両へと向かう。 「俺、先に座ってるから、どうぞお2人で。」哲がそう言ってニヤリと笑った。本日初めての笑顔だ。そして車内に消える。 「ちょっと、様子が変、かな。」と和樹が呟いた。 「うん。そうだな。」涼矢が哲が乗りこんだ乗車口を見つめる。もうそこには別の乗客が乗り込む姿が見えるだけだが。涼矢は和樹に微笑みかけた。「あいつには後で話を聞いておくよ。それで、ちゃんとおまえにも知らせるから。」 「無理するなよ?」和樹が笑う。「おまえそういうの、慣れてないんだから。」 「うん。」  和樹は涼矢と目を合わせる。「えっとあの、いろいろ、世話になったな。」 「なんだそれ。」涼矢は笑う。 「メシとか、掃除とか、アイロン掛けまで、いろいろやらせたから、さ。」 「世話になったのはこっちだし。」 「これに懲りずにまた来てください。」和樹も笑う。 「うん。」 「着いたら、連絡して。」 「ああ。」 「あとは……ああ、もう別に話すことねえな。」 「うん。」 「おまえからはないの?」 「好きだよ。」  突然の言葉に、和樹がむせた。「な、このタイミングで言うか。」 「他に言いたいことないし。」 「まあ、それは、俺もだけど。」そう言って、少しの間を空けてから「俺も好きだよ、涼矢。」と言い直した。 「ん。ありがと。」涼矢は静かに笑う。「帰ったら寝ろよ。昨日、ほとんど寝てないし。」 「おまえもだろ。」 「俺は電車の中で寝る。」 「ダメ。」 「なんで。」 「哲に寝顔を見せるな。」 「また、そんな。」涼矢は苦笑する。「とにかく、クマできてるから。ちゃんと寝な。」 「そう言えばさ、明日からなんだ、塾バイト。」 「えっ、そうなの? 何も準備してなかったみたいだけど。」 「俺の担当、とりあえずは小学生だし、なんとかなるよ。だからね、バイトの日は連絡付きづらくなるかも。ちゃんとしたシフト決まったら連絡する。」 「分かった。頑張れよ。」 「うん。」  和樹はホームの時刻表示を見る。「そろそろ、時間だな。」

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