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第246話 リスタート(2)

 今度は涼矢が笑った。 「今日はあの後、何してたの。」 ――昼寝して、メシ食って、風呂入った。今は本読んでた。 「いつも通りか。」 ――うん。  いつも通り。今はもう、それが「いつも通りの、普段の暮らし」だ。一人の。 「何食べたの。」 ――オカンみたいだな。  笑いながら和樹が言う。 ――心配するなよ。まともなもの食べたよ。昼はスパゲティ作って食べたし、夜は……夜もスパゲティだったわ、そういや。 「スパゲティばかり。」 ――そうだけど、工夫したからな。昼はミートソースで、夜はたらこスパにした。 「どうせレトルトのソースかけたやつだろ。」 ――でも、ちゃんと、栄養バランスを考えて、おまえの作ってくれたの、食べたぞ。レンコンのきんぴら。 「すげえ組み合わせだな。」 ――文句ばっか言うなよ。外に出る元気もなく、家にあるもので済ませるのがやっとだったんだからさ。 「具合でも悪いのか。」 ――……馬鹿、ちげえよ。 「あ、もしかして俺が帰っちゃったから?」 ――わざわざ言葉にするんじゃない。 「そうなんだ。」 ――しみじみすんな。 「やっぱ今から行こうか?」 ――来るなよ。来たらおまえ、どうなるか分かってるか? 「どうなる?」 ――二度と帰さない。 「うわ。勃つわ。」 ――他に言い方ねえのかよ。 「ねえな。」 ――まあ、メシのことよりそれだよ、問題は。 「ん?」 ――今日から俺、1人寝ですよ。 「俺だってそうだ。」 ――眠れる気がしねえわ。 「昼寝しただろ。」 ――そうでなく。分かるだろうが。 「分かるよ。」 ――ヤリたい時にヤレるってのは、幸せなことだったんだなとつくづく。 「そりゃそうだ。」 ――昨日まで天国だった。 「俺は早速地獄を味わったけどな。」 ――せっかく俺がおまえへの愛を語ってるのに、兄貴のことなんか思い出させるなよ。 「愛なんか語ってたのか。」 ――語ってただろ。それで、このまま滑らかにテレホンセックスに雪崩れこむ流れだろ。 「それは気が付かなかった。」 ――で、しないの? 「してもいいけど。」 ――なんだ、その言い方。気分じゃない? 「ん。悪い。ちょっとね。いろいろあってキャパオーバーなんだ、今。」 ――そうだ、その話。何だったの、昼間の。なんかあったっぽい話。 「ああ、うん。」その後にも佐江子と話しあい、宏樹を交えて食事をし。いろんなことがあって、遠い昔のような気がする。「親父にバレた。」 ――えっ。 「バレたっつか、とっくにバレてた。おふくろが速攻バラしてた。親父と一緒に食事しに行っただろ? あの時には、もう、知ってたんだとさ。」 ――マジか。 「うん。」 ――じゃあ、あの時、俺は、そういう目で見られていたと。 「うん。……今おまえがムカッとしてるのは分かってる。悪い。」 ――ムカつくというか……複雑だよ。でも、別に、おまえが言ってたみたいな? 変に溺愛する感じはなかったと思うけど。  そう言いながら、あの時の田崎氏は終始穏やかな笑顔で、それゆえに感情がまったく読めず、若干怖く感じたことを思い出す和樹だった。 「そうなんだよな。そこまで含めての俺への愛らしい。俺がおまえを友達だと紹介したから、その意志を尊重したのだと。おふくろの見立てだと。」 ――佐江子さんとしたわけ? その話。 「そう。ええと、なんでそんな話になったんだったかな……。とにかく、おふくろが俺らが同棲したら同じマンションに住むとか言い出してさ。いきなりそれかよって思って。嫌じゃないのかって聞いたら、息子がゲイなのを恥じるような親じゃないって。何か嫌なことがあったりしたら話せって。おふくろに言うのが嫌なら親父でもいいって言うから、親父、知ってるのかって聞いて。そしたら、当たり前みたいに知ってるよって。で、俺、ちょっとキレて。その後なんだよ、和樹に電話したの。だからあんな、変な感じになった。」 ――でも、メシ食いに行くぐらいなら、仲直りしたんだよな。 「うん、まあな。」 ――おまえと佐江子さんの仲直りってどうすんの。どっちも引かなそう。 「引かないね。まあ、今日はおふくろが先に譲歩したのかな。ラーメン作るけど食べるかって聞きに来たから。結局俺が作ったけど。」 ――やっぱ、好きな人の胃袋をつかむって大事だね。 「なんかそれ違う。」 ――ラーメン一緒に食っただけで仲直り? 「いや……。そんなに簡単には。だって俺と佐江子さんだし。」 ――だよね。 「でも、最終的には珍しく謝ってくれたからな。勝手に親父に言って悪かった、って。それに、親父に言うはずがないってのは、俺が思い込んでただけで、口止めも何もしてなかったしね。」 ――そこに至るまでの経緯が知りたいよ。俺、おまえが怒るとどうしたらいいか分かんないもん。でもな、どう考えても佐江子さんと同じことはできないもんな。 「でも、佐江子さんにはできないフォローができるだろ。」 ――涼矢くんのエッチ。 「そんなこと、ひとっことも言ってませんけど。」

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