247 / 1020

第247話 リスタート(3)

――違うの? 「違わないけど。」 ――なんだよ。  和樹が笑った。 「怒ってない?」 ――何を? 「親父にバレてたって。」 ――まあ、いいんじゃないの。え、もしかして、俺、実はお父上に嫌われてたってオチ? 「いや、それはない。全然ない。高く評価されてる。」 ――じゃあ、問題ないでしょ。むしろ、あれこれ悩まずに済んでラッキー的な。 「……やっぱりおまえって、そうだよな。」  涼矢は軽く笑う。 ――ん? 「そう言うと思ってた。親公認なら良かったじゃないか、とか。」 ――そう、それ。うちもなぁ、涼矢のとこぐらい理解のある親ならなぁ。  和樹の親。つまりは宏樹の親でもある。宏樹の言った「うちの親は、決して理解がないわけではないが、少し時間がかかるだろう」という言葉を思い出さざるを得ない。  親を含めた他者からの理解は、自分にとってはオプションに過ぎない、と涼矢は思っている。いくら和樹にそれを否定してもらったところで、「理解されなくて当然」と自分に言い聞かせてきた時間が長過ぎたのだ。理解してもらえるなら、それに越したことはないけれど、そうでなくても構わない。和樹さえ分かってくれていればいい、と思ってしまう。でも、その和樹は、それでは幸せになれないのも分かっている。哲の幸せさえ願う和樹が、自分の親を絶望させてまで幸せになりたいと思うはずがないのだ。だから。  涼矢は嘘をつかない範囲の、そして和樹が素直に共感してくれそうな、そんな落としどころの言葉がないかと頭を巡らせる。 「……時間をかけていけばいいよ。世界中の人に祝福してほしいわけじゃない。本当に分かってもらいたい人だけに、分かってもらえればいいんだから。」  そう言いながら、自分はずるい、小賢しい、と思う。  "本当に分かってもらいたい人"なんて、俺にとっては和樹だけなのに。でも、和樹はこの言葉を最大限に拡大解釈するだろう。お互いの親兄弟はもちろん、親しい友人、あるいはマスターといった人までその範囲に入れて。そのズレに気付いていながら、俺はそこについては言わない。 ――おまえがそう言ってくれるんなら、助かるけど。  そして、そのずるさに、和樹は気付かない。気付かないくせに、涼矢の一番痛いところを突いてくる。でも、その痛みがあればこそ、涼矢は少なからず感じている罪悪感を軽減できるのだった。 「助かるなんて。」 ――だってさ、不公平だろ。俺だけ、家族公認みたいなのって。 「宏樹さんがいる。」 ――そうだけど、兄貴は恋愛に関しては人の心配してる場合じゃないだろうしな、あんまり頼りにならないよ。  確かに、まさに今日も振られた話を聞かされたわけだが、和樹には言うなと宏樹に釘を刺されてしまっている。もっとも、そんな口止めをされずとも、言うつもりはなかったが。 「和樹のこと心配してたよ、ちゃんとやっていけてるのかって。一応、それなりにやってましたって言っておいたけど。」 ――サンキュ。 「ああ、あと、お金もらった。」 ――へ? 「宏樹さん、自分の分の食事代は払うって言って。結局おふくろが全額出したんだけど、だったら俺にって、こっそりその金くれた。和樹はろくに金持ってないだろうし、俺が結構負担したんだろうって、気を使ってくれて。」 ――おや、ヒロったら良いお兄ちゃんだね。もらっておけばいいんじゃない? 「今度そっち行ったら、おまえに渡すよ。」 ――いいよ。それじゃ意味ないだろ。兄貴はおまえにくれたんだから。 「そっか。じゃあ、何かおまえに送る時の足しにするわ。」 ――誕プレ? それよりクリスマスが先か。どっちにしろ気が早いな。 「別に何かの日でなくたってプレゼントしていいだろ。この間送ったプラグだって。」 ――ストップ。その話はやめろ。 「そうだ、あれのもっとデカいサイズの奴、送るわ。」 ――やめろと言ったのが聞こえなかったのか。それと兄貴の金でそういうものを買うな。 「分かった、純然たる自分の口座からおろした金で買う。」 ――要らねえっつってんだよ。 「バイブのほうがいいか?」 ――何て言えばその話をやめてくれるの? 「んー。おもちゃじゃヤダ、本物がいい、とか。」 ――送るならおまえのチンコを送れ、これでいいか? 「送ろうか?」 ――はあ? 「欲しけりゃやるよ。チンコの1本や2本。いや1本しかねえけど。」 ――グロいこと言うなよ。痛えよ。 「想像力が豊かだね。」 ――そう、だからやめて。 「でも、俺のチンコなくなっちゃったら和樹も困るよね。」 ――やめてくれないんだ? もう電話切る。 「嘘、ごめん、やめる。ちょっと変なテンションがおさまってないもんだから。」 ――おまえの精神安定の方法は間違ってる。 「だよね。本当は、正しく和樹にキスしたりして精神安定を図りたいのにな。」  すると、スマホの向こうから、チュ、というかすかなリップ音が聞こえた。 ――聞こえたか? 「……はい。」 ――録音するヒマもなかっただろ。ざまあ。 「ひどいな。もういち……」 ――もう一度は、いたしません。一回限りだから、ありがたいんだよ。録音なんかするのは邪道なの。

ともだちにシェアしよう!