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第333話 SMOKE(8)
「腹痛くなったら明日困るだろ。」涼矢は構わず、コンドームを手にした。和樹はそれ以上強く拒否はしなかった。
「明日……そっか。明日か。」ぼんやりとあらぬ方向を見て和樹が呟いた。
「どうした?」
「なんでもない。」和樹は涼矢に視線を戻して、手を伸ばした。「来て。」
「さっき良かったとこ、教えてよ。」涼矢は挿入を始めた。「結構入口のほうだよね。」さっきの和樹の動きを思い出しながら、浅いところを何往復かする。
「あ……んっ……。」和樹が小さく喘ぐ。
「ここ? ここがいいの? ちゃんと当たってる? 言って?」
「いい。気持ちいい。」和樹は甘い息を吐きながら言う。「でも、全部気持ちいい、から。奥も、して。」
奥と言われて、さっきの"スイッチ"の件を思い出した。今でも充分エロいのに、それを押したらどうなると言うんだろう。涼矢は心の中でそんなことを思いながら、深く貫いていく。
「んっ……あ、ああっ……やぁ……ん……はっ……。」和樹が両足をからみつけてくる。もっと奥へ来いとでも言うように。涼矢の動きが自然と加速した。自分がそうさせたのとも気付かずに、和樹は「もっと、ゆっくり。」などと懇願した。涼矢は望み通りにゆっくりと、和樹の下半身を持ち上げるように腰をしっかりと抱いて、更に深いところへと迫った。「あっ……い……きもちい……涼……。」
「スイッチ?」
「ん?」蕩けたような顔で、和樹は涼矢を見た。
「スイッチ、押せてる?」
「え……? あ……スイッチ。」和樹はぼんやりと思いだした様子だ。どこか上の空なのか、快楽に浸りきっているのか、判別つかない。「まだ、もっと奥。中まで、突いて。」酒に酔っているかのように潤んだ目で、そんなことも言う。
「嘘、もうスイッチ入ってんだろ。」涼矢が激しく突いた。
「1回じゃダメ。」
「ずるい。」と言いながらも、何度も突き刺した。
「んんっ……あっ……涼、もっと……あっ……あっ……。」
「スイッチ入るとどうなんの。」
和樹は涼矢を抱き寄せた。答えの代わりか、わざと耳もとで喘ぎ声を聞かせているらしい。
「なあ、どうなんの。」涼矢は和樹のペニスをしごいた。ローションと先走りの液で泡立ち、くちゅくちゅと音を立てた。「もっとエロくなる?」
「うんっ。」喘ぐように返事をする。あるいは、返事するように、喘いだ。
「今より? この先なんてあるの?」
「やっ……あんっ……ある、よ……。」
「すげえな。」涼矢はさっきは避けた首筋にキスをして、強めに吸う。
「……涼の……涼矢のもんになる。」和樹がかすれた声で言った。
「え、何?」
「俺……ぜんぶ、おまえのもんになる。」うわごとのような小さな声。紅潮した頬。潤んだ目もさっきまでと同じだが、しっかりと涼矢を見つめている。「ぜんぶやる。……から、好きにして。」小さい声でも、それははっきりと聞き取れた。
涼矢は和樹と繋がったまま、キスをした。「今、好きにしてる。」
「ん……じゃあ、おまえも、ぜんぶ、くれ。」
「いいよ。」涼矢は安直なまでに即答した。正直、何を言われているのか、分からない。今こんな時に理屈をこねていられない。愛を誓っているのだろうとは思うが、ロマンチックな言葉よりも、和樹のこの熱い体で絶頂を迎えたいのだ。今はそれだけだし、それが愛の約束より意味も価値もある気がする。
涼矢は和樹にくっつかんばかりに重ねていた上半身を再び起こすと、激しく腰を動かした。和樹はその熱と衝撃を体の奥深くに受けるたびに淫らな声を上げた。
「あっ……あんっ……涼っ……好き……ぜんぶ……ほし……ああっ…いい……もっと……。」気が遠のいていきそうで、無意識に自分の人差し指を噛んだ。
「かず、ね、イッてい? イキそう?」涼矢は汗ばみ、息を荒くしながら言った。確認するように和樹のペニスを握る。硬く熱いそれは、自分のと大差なく限界が近そうだ。
「うん、イク、俺も。」
ふっ、と、腹筋に力を込める時のような短い息を吐き、涼矢が達した。ほぼ同時に涼矢の手の内に和樹も精を吐き出した。
涼矢はしばらくそのまま肩で息をして、自分の手のひらの精液をティッシュで拭き取ってから、ゆっくりと抜いた。コンドームを慎重に外し、処理をした。ゴミ箱までの数歩が面倒で、一度はティッシュの塊を放り投げようとピッチングフォームまで構えてみたが、失敗した時の惨事を考えて、おとなしく捨てに行った。戻る時にはゴミ箱を抱えてきて、ベッド脇に置いた。
「何、ゴミ箱?」
「またすぐ使うから。」
「またやんの? すぐに?」
「おまえが必要そうだ。」涼矢は和樹のペニスを握る。射精の後でも、あまり萎えていない。
「おさまんねんだよ。でも、いいよ、ほっときゃそのうち。」
「なんでほっとくんだよ。俺がいるのに。」
「だって……。」
涼矢は匍匐前進のようにして和樹に乗り上げた。体重がかからないように腕をつっぱらせて自重を支えると、真上から和樹を見た。「俺のもんになるんじゃないの? 好きにしていいんだろう?」
「何それ?」和樹はとぼけているわけではなさそうだった。
「はあ? おまえが言っただろ?」
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