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第334話 SMOKE(9)
「いつ?」
「今だよ、ついさっき。」
「そんなこと言った?」
「言ったよ!」
和樹の黒目が何かを思い出そうと上を向く。「ああ……言ったかも。」
「なんだよ、嘘なの?」
「嘘じゃないよ。ちょっと夢と現実がごっちゃになっただけ。」
「ちゃんとしっかり俺のこと見て言ったよ。忘れんなよ。」
「それ言ってたんだとしたら、おまえもぜんぶ俺のもんだってのも、言ったよな?」
涼矢は一瞬言葉に詰まった。最高潮に気持ちの良い時で、とりあえずその場の流れで、いいよと答えたのだ。「なんでそれは覚えてるんだよ。」自分の無責任さを棚に上げるため、知らず非難めいた口調になる。
「覚えてる……つか、いつも思ってる。けど、前に言ったことと矛盾してるなって思ったから、言わないでいた。……言わないつもりでいた。」
「矛盾?」
「俺の人生は俺のもんだし、おまえもそうだって。俺たちは別々だって、前に言った。けど、最近は正反対のことも、よく考える。ぜんぶ共有したい。ぜんぶ欲しい。ぜんぶひとつになりたい。そのためなら俺のぜんぶやったっていい。……矛盾してる。」
涼矢はその言葉を聞きながら、和樹の鎖骨から臍のほうまでを愛撫していた。和樹の言葉が切れたところで、頬にキスをした。「俺じゃないんだから、めんどくさいことごちゃごちゃ考えんなよ。で、結局どうすんの、これ。」涼矢は和樹の股間に手を伸ばし、そんな言葉を語りながらも、まだ収まる様子のないそれを握る。
和樹はだらしなく腕を伸ばし、涼矢に言った。「どうにかして。」
「口でする?」
「やだ。」
「……挿れるほう、やる?」
「うーん。今日はいいや。」
「わがままだな。」涼矢は苦笑いをしながら、ローションを手に取り、その手を筒にして和樹のペニスを刺激し始めた。
「んっ。」和樹は体を一瞬のけぞらせたが、そのすぐ後には、逆に胎児のように背を丸めた。だが、まださほど激しい反応ではない。それでもしばらくそんなことをしていると、次第に汗ばみ、息が荒くなってくる。和樹は涼矢の手に自分の手を添えて、涼矢の手の動きをやんわりと止めた。不思議そうに和樹を見る涼矢に、和樹が言う。「ねえ、それ、いいんだけど……最後は挿れて。」
「中でイキたいんだ?」冷やかすでもなく、むしろ愛しそうに和樹に言った。ペニスに触れる手も再び動き出す。
「ん。ゴムもしなくていいから。」
「なんで今日、そんなに嫌がるの。」
「嫌がってるわけじゃないけど。」
「ないけど?」
「わかんね。」和樹は投げやりにそう言って、涼矢にからみついて、キスをした。と言うよりは、キスをせがんだ。口を半開きにして、赤い舌を誘うように出す。その度に涼矢はそれに応えた。何度目かの時に、顔を至近距離に寄せたまま、和樹は言った。「遭難してるみたいな気分なんだ。」
「えっ?」突然の言葉に、意味が取れずにぽかんとした。一瞬、和樹のペニスをしごく手も止まる。
「雪山とかでさ、遭難して、死ぬかもしれないって極限状態の時に、やたらセックスしたくなるって、聞いたことない?」
「聞いたこと、ある気もする。」
「そういう感じ。死んだとか葬式とか、そんな話ばかりしてたら、なんか、自分もそれに巻き込まれて。おかしいよな、そう言う時の性欲って、種の保存の本能が働くせいらしいよ? 俺らがセックスしたって、種の保存なんか、いっこも関係ないのにな。」
「中出しもそれで?」
「そっか、妊娠したいのかな、俺。」和樹はそう言うとハハッと乾いた笑いをした。「いや、さすがにそれはねえわ。でも、なんか、おまえのそういうの直接感じたいって、すげえ、思っちゃって。」
涼矢はそれに言葉を返すことはせずに、突然体を起こし、和樹を横向きの姿勢にさせた。それに平行になるように自分も横たわり、背後から和樹にぴたりと密着した。ローションをたっぷりと手に付けて、和樹のアナルへと指を挿れた。
「あっ。」和樹は身をよじる。「いい、準備要らねえ、さっきしたばかりだから、すぐ……。」
「だめ。ちゃんとやる。」言葉通りに、涼矢は丁寧にほぐしはじめた。
「あっ……あっ……も、いいってば……やっ……。」涼矢は和樹をほぐしながら、自分のペニスも和樹の尻にこすりつけるようにして刺激した。
お互いのそれが充分に屹立したところで、涼矢は和樹の腰を抱いて、バックの姿勢を取らせた。「後で中まできれいにするからな。」涼矢はコンドームを付けずに挿入した。
「言うなよ、馬鹿。……んっ。あっ……はぁ……んんっ。」
「分かる? ちゃんと、俺、いるの。」
「んっ。わか、る……。」
「もっと欲しい?」
「ん。」
「言って。」
「もっと。」
「もっと何?」
「もっと中まで、来て。」
「いいよ。」
「涼矢、欲しい。」
「ん。
「ぜんぶ。」
「いいよ。」涼矢は和樹の背中に口づけた。「ぜんぶあげる。」これは適当に言ったわけじゃない。本心だ。ぜんぶやる。おまえに、ぜんぶやるよ。つか、最初っからぜんぶおまえのものだよ、和樹。
「ん、あっ、あっ、涼っ。」
和樹は涼矢の名前を呼ぶと共に射精して、背後の涼矢を振り返ってキスをせがんだ。涼矢は和樹に密着して、頭ごと引き寄せてキスをする。ひとしきり濃いキスを繰り返してから名残惜しそうに唇を離すと、2人の間に唾液が糸を引いた。
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