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第348話 いつか晴れた日に(3)
思い出語りを仕掛けたのは和樹ではなかったかと思いつつ、涼矢はその誘いに乗った。和樹の肩に抱きつくようにして、その勢いのままに、和樹と上下逆の体勢になった。涼矢は和樹の両の手首を押さえつけて、首筋に舌を這わせた。舌は胸へ、腹へと徐々に下降していく。時折、唇で触れるだけのキスも混ざる。股間を避けて、内腿を舐めた。膝の裏を、脛を、くるぶしを。文字通り、頭から足のつま先まで愛撫され、舐めとられて、和樹は甘い喘ぎを上げる。自分の体の輪郭を、涼矢の舌が描いていくようだと思う。
決定的な強い刺激のない、緩やかな愛撫が続く。じれったさと、ぬるま湯に浸かっているような心地よさとが半々だ。
つま先までたどりついた涼矢は、和樹の足を広げさせ、ついにその中心を舌で絡めとり始めた。
「あんっ。」それまでは「荒い息」の範疇だった和樹の喘ぎだったが、思わず声が出る。
涼矢は、まだ勃ちきっていない和樹のそこを、丁寧に舐めはじめた。ところどころで、和樹の体がぴくんと波打つ。硬さを増してきたところで、涼矢はベッドの端に丸まっていた掛布団をつかんだ。「ちょっと、腰、浮かせて。」和樹が素直にその指示に従うと、涼矢は和樹の腰の下に丸まったままの布団を押し込んだ。高さが出て、より口淫をしやすくなる。涼矢は更に和樹の腰を持ち上げるようにして、アナルのほうへと舌を伸ばした。ペニスのほうは手を使う。
「んっ。」和樹の体がしなる。「あ、涼、それ、無理……。」
「気持ちよくない?」
「……いいから、無理っ。」
それを聞くと満足そうに微笑み、しかしながら「まだイカないで。我慢して。」と言いのけて、涼矢は、再び和樹の粘膜に舌を差し入れて行く。
「んっ……くぅ……や、あっ……。」和樹は自分の腕で口元を押さえて、不用意に声を出さないようにするが、どうしても合間から漏れ出てきてしまう。「涼、も、むり……。」
涼矢はようやくそこから口を剥がした。不要だとは思ったが、それでもローションを手に取って、今度は指を挿入する。
「もう、いいって……。」和樹の顔は上気している。息も荒く、肌は汗ばんでいる。「じゅんび、しらし……も、い、ら……。」最後は「もういいから」と言ったのだろうか。酩酊状態のような呂律の回らない言い方に、涼矢は余計に煽られる。
「うん、もう、やらかくなってる。」涼矢は和樹を見下ろす姿勢で、ニヤリと笑った。それと同時に、和樹の奥深いところにある涼矢の指がクイッと曲げられ、和樹の体が弓なりにのけぞった。
「やだ、もうっ。」和樹は自分の激しい反応を恥ずかしがって、涼矢の視線を避けるように両目の上に腕を置いた。「さっさと……。」
「さっさと?」
「聞くな。……あっ、ちょっ……やだ、あっ……んんっ。」
「でも、まだダメ。」涼矢は指を引き抜いた。その指も含めた両手で、和樹のペニスをしごきだした。
「なっ……やめっ……涼、ちがっ……。」
「まだ挿れないよ?」
「焦らすな……よ……。」
息荒く喘ぐ和樹を無視して、涼矢は再び股間に顔を埋め、和樹のペニスを口に含んだ。
「ばか、涼、やだ、むりっ……。それ、いいから、も……。」
「んー。」涼矢は和樹を咥えたまま、肯定なのか否定なのか分からない声を出した。
「あ、やだ、出ちゃ……涼、挿れて、おねが……。」
それでも涼矢はひとしきり咽喉の奥まで使って、和樹のペニスを舐りつづけた。
「イッちゃうから、早く……。」和樹が涼矢の肩を強くつかんだ。それでやっと涼矢は顔を上げ、自分のペニスにコンドームをつけ、さっき散々弄んだアナルへと挿入を始めた。「あっ、あっ、や、イク、も、あん……ッ。」限界に近いところまで昂められていた和樹は、挿入半ばで既に全身を痙攣させ、それが収まると足をピンと張りつめさせて、涼矢が奥深くまでたどりつくと、一気に絶頂へと駆け昇って行った。「あ、涼、イク、イクッ。」
和樹がフィニッシュした瞬間、和樹のそこがキュッと締めつけてくる。僅かな時間差で涼矢も小さく呻いて、射精した。和樹が手を伸ばして、涼矢を抱く。何度もキスをした。
「好きだよ。」涼矢が和樹の耳元で囁いた。
「ん。」
「可愛いって言ったら怒る?」
「怒らないけど。」
「可愛い。」涼矢は和樹の頬や額にキスをする。「可愛い。」
「何度も言うな。」和樹は苦笑いをした。
「だって可愛い。」涼矢は顎のラインや耳にもキスをした。
「くすぐったい。」
「ん。」軽いキスがくすぐったいのなら、という意味なのか、涼矢は和樹の口を指先で開かせて、口づけた。じゅる、と音が出るほどのディープキス。そうしながら和樹の乳首を弄ると、和樹がビクンを身を震わせた。
「おまえ、なんか今日、しつこい。」和樹がやんわりと涼矢を押し返した。
「しつこいのはいつもだろ。」
「ねちこい。さっきも。」
「そうかな。」
「さっさと挿れろっつってんのに、指とかフェラとか。」
「言い方。」涼矢は笑う。
「本当、サドだろ。」
「和樹がそうさせてんだって。……あ、でも、さっきのはちょっと違うかな。」そう言いながら、涼矢は和樹の手を取った。かと思うと突然、その手の、人差し指と中指を握って自分の口に中に入れた。
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