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第358話 いつか晴れた日に(13)
「どっちも肉欲。」
「うまいこと言ってやったみたいな顔してんじゃねえよ。」
「そんな顔してない。これはどっちも大好きって顔。」
「大好きなんだ?」
間近に顔を近づけてそう囁かれると、和樹は急に恥ずかしくなった。「改めて聞くな。」
涼矢はにっこり笑って、和樹の頬にキスをした。「大好き。」
ことが済んだあとも、2人はまったりとベッドにいた。
「面倒くさくなってきちゃったな。」と涼矢が呟く。
「メシの支度?」
「ん。」
「手伝うよ。俺、なんだっけ、だんご係だっけ。丸めるの得意。あと、ごはんも炊くし。」
「和樹がそこまで言うなら、作らないとなあ。」涼矢は笑う。
2人は部屋着を着て、キッチンに立つ。涼矢が玉ねぎを刻み出すと、和樹が米を炊飯器にセットした。夏に一度経験済みだから、和樹もなんとなく流れは分かっていた。指示する前からボウルを出してパックの挽き肉を移したり、付けあわせ用の人参の皮を剥いたりと、和樹がスムーズに動くことに涼矢のほうが驚いた。
「ねえ、これ便利だよね。」人参の皮を剥きながら和樹が言った。
「ピーラー?」
「そう、夏におまえが買っておいてくれただろ。時々使ってる。」
「聞いた時には要らないって言ってたけどな。」
「だって、何に使うのかも知らなかったから。でも、使ってみたら便利便利。」
「どういうのに使うの。料理すんの。」
「え、人参とか、じゃがいもとか。カレーぐらいは作るってば。」
「じゃがいも、包丁のほうがやりやすくない? でこぼこしてるし。」
「だから、つるっとしたやつ買うようになった。メインクーンとかいうやつ。」
「メイクイーンな。でも、メインクーンって聞いたことあるな。」
「あ、それ猫だ。猫の種類。」
「ああ、それだ。」
そんなことをしゃべりながらも、作業は進む。涼矢は刻み終わった玉ねぎを炒めながら、無意識に口の端に笑みを浮かべていた。
「はい、こっちの人参、皮剥いたよ。……って、なんでそんな、ニヤニヤしてんの。」
「へ? ニヤニヤしてる?」
「ああ。鼻歌でも歌い出しそうだった。」
「や、別に。」涼矢はフライパンの玉ねぎに視線を移した。
「さっきのHの、思い出し笑い?」
「馬鹿、違うよ。」
「最近、涼矢くん、ねちこいよねえ。」
「違うって。」
「じゃ、何?」
和樹は涼矢の横顔を凝視しているが、涼矢は決して和樹を見ようとはしない。ぼそっと「ただ、一緒に料理してんのが、嬉しいだけ。」と言った。
「ふうん。」和樹は手持無沙汰なのをいいことに、自分の視線に気づいているであろう涼矢を、わざと見つめ続けた。
「やることないなら箸でも並べてろよ。」
「ナイフとフォークじゃないの。」
「じゃあ、それを出せよ。」相変わらず和樹を見ない。
「このぐらいのことでそんなに喜ぶなら、もっと頑張って覚えようかな、料理。」
和樹がそう言って初めて、涼矢は和樹を見た。その顔は赤い。
「焦げるぞ。」涼矢の手が止まっているのを指摘する。
「あ、うわ、やべ。」涼矢は慌てて火を止めた。
「そんなに驚かなくたって。」
「いや、驚いたっていうか。……いや、驚いたのか、うん。」
「あんまり期待するなよ。皮剥きぐらいが関の山だ。」和樹は笑って、手の甲の側で、涼矢の頬を愛しそうに撫でた。
その後も「こね係」の和樹の活躍もあり、順調にハンバーグを焼く段になった。そこへきて、涼矢はフライパンの空いたスペースで目玉焼きを作りはじめた。前回はチーズを載せたが、今回は目玉焼きを載せるつもりらしい。
「半熟がいい。」と和樹が言った。
「もちろん、そのつもり。」と涼矢が言った。真剣な顔でタイミングを計っている。その甲斐あって、絶妙な焼き加減の目玉焼きが出来上がった。涼矢は皿にハンバーグを載せ、その上に目玉焼きを載せる。2つとも黄身を壊すことなく、きれいに載った。そこに茹でた人参と缶詰のスイートコーンを添える。
「ああ、最高。」と言いながら和樹がテーブルに運んだ。「おまえもハンバーグも最高だよ、マジで。」
「感想は食ってからにしてくれ。」涼矢はフライパンをザッと洗うと、席についた。
「おまえをか?」
ニコリともせずに涼矢が言った。「両方。」
「おまえのことはさっき食ったばっかりだけどな、また食うのか。」和樹が笑う。
「ハンバーグは食ったらなくなるけど、俺は食ってもなくならない。」
「むしろ増える。」
「太るってこと?」
「ちゃうよ、好きって気持ちが。」
涼矢はまたはにかんで赤くなる。
「なんで下ネタ平気なくせに、そこで照れるんだよ。」そう言っている和樹もつられて顔を赤くしている。「もういい、食うぞ。いただきます。」
「いただきます。」
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