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第361話 いつか晴れた日に(16)

 和樹の背中におぶさるようにして、涼矢は荒い息を落ち着かせた。少し呼吸が整ったところで、ペニスを抜いた。それから和樹の手首のベルトを外し、傷の有無を確認した。取り立ててそういったものがないことが分かると、コンドームの処理をする。ゴミ箱に捨てると、その足で洗面所に行き、タオルをお湯で絞って戻ってきた。  ぐったりと横たわる和樹の下腹部をそれで拭う。自分でやる、と和樹が手を伸ばすが、涼矢はそれを無視して作業を続けた。「そんなん、ティッシュでいいのに」と言いつつ、和樹はあっさりとそれに任せた。 「俺、こういうことだったらナース役もできそう。」涼矢はそんなことを言いながら丁寧に拭き、汚れた面を内側にしてタオルを畳んだ。 「なんで?」 「入院中、風呂に入れないから、こういうおしぼりで体を拭くだろ。自分でできない時はナースがやる。」そう言ってまた洗面所のほうへ行き、少し離れたところから洗濯カゴにそれを放り込むと、すぐに戻ってきた。和樹の隣に横たわる。和樹はうつ伏せ、涼矢は仰向けだ。 「俺、入院したことないからなあ。涼矢はある?」 「話しただろ、柳瀬がノート持ってきてくれた話。喘息持ちだったせいもあって、風邪こじらせて、肺炎になりかけて、2週間入院した。後半はもう自分でやれたけど、前半は高熱も出てたし、自力では動けなくて。」 「で、ナースが?」 「おふくろがいればおふくろがやったけど、来られない日もあったから、そういう時は。」 「ナース物のAVとかだとさ、ヌいてくれたりするけど、あれ、本当かな。」 「知らねえよ、俺、小2だよ、その時。」 「ああ、まだそういうの、ないか。」 「ないよ、ちなみに剃毛も必要なかったよ。」 「お、よく俺の次に気になるポイントが分かったな? そっか、まだ生えてもねえよな。」 「生えてても関係ないよ、あれはお腹の手術の時にするんだから。」 「ああ、そうか。」 「和樹、やっぱり好きだろ、ナース。」 「でも、おまえのナースコスプレなんか見たくない。」 「失礼な。」 「男もいるだろ、看護士。」 「男性は、スクラブ着てる人が多いかな。首元がVのやつ。」 「詳しいね。」 「幼少期は病院通いしてたんで。」 「そのスクラブってやつなら、まだ分かる。ああ、でも、だったら、普通に白衣のほうがいいかな。あ、そうだ、ドラマの救命救急の青いやつとか、あれもカッコいいよな。」 「コスプレに目覚めた?」涼矢は笑う。 「目覚めてねえよ。ナース服よりはまだマシっつってんの。」 「和樹にはやっぱり、オーソドックスな丈の長い白衣を着てもらいたいかな。」 「着ねえよ?」 「聴診器買ってこようかな……。」 「涼矢くん、話、聞いてる?」 「和樹は何着ても似合うから。」 「うっせえよ、この流れで言われても、全然褒められてる気がしねえよ。」 「ミスコンの時は何着る?」 「さあ? 何も聞いてないし、普通の格好でいいだろ、そんなの。」 「一番和樹らしさをアピールできる格好って言ったら。」 「……競泳水着? 無理だろ。」和樹は笑った。 「ジャージでいいんじゃない、この。」涼矢は自分が借りていたジャージを指差した。「それで、ここぞと言う時に水着になったらいい。」 「君は僕がそういうことをして、キャンパス中の笑いものになっても良いと?」 「笑わないよ。」涼矢は和樹の頬に手を伸ばす。「俺は笑わないから、練習で俺の前でやってみてよ。」 「やるか、バーカ。」  2人で顔を見合わせ、笑った。  翌朝。涼矢は起きて早々に自分の着てきた服一式を身につけた。 「パンツは自分の穿いてるだろうな?」和樹が冗談半分、だが半分は本気で、言った。 「穿いてる。追加で買ってきたのは、和樹の下着に紛れ込ませてあるから、それが出たら当たりだと思って。2枚ある。」 「どこが当たりなんだよ、ちゃんと分けておけよ。間違えて穿いちゃうだろ。」 「穿いていいよ。おまえにやる。」 「で、散々俺に穿かせておいて、次に来た時にはこれは俺のだって言い張って、またおまえが穿くんだろ?」 「そんなことまで考えてないよ、ギリギリの枚数しかないっつってたし、買ったばかりでほぼ新品だから良かったらどうぞって言っただけ。考え過ぎ。」 「じゃあ、そんなことしないな?」 「言われてみたら名案だとは思った。」  和樹はハア、とため息をついて、とりあえず部屋着を着た。  ありあわせのもので朝食を済ませると、「午前中、どっか行く?」と和樹は聞いた。 「もう2時間しかないし、いいよ。」 「そっか。2時間か。」和樹はぼんやりと時計を見た。 「年末帰ってくる日は決まってる?」 「たぶん26日だな。その日から冬休みだから。」 「了解。」 「おまえんちに帰ろうかな。家には、27日に帰るっつって。」 「別にうちは構わないけど、なんで。」 「俺んちはその、2人きりになりにくい。」 「ああ、そういう……。ただ、年末年始は親父も戻ってくる可能性が高いけど。あ、でも26ならまだいないかな。たぶん、29からが休みだろうから。」涼矢はスマホのカレンダーを見ながらぶつぶつ言う。

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