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第365話 君と見る夢(2)
「本音を言えば、もっと突っ込んだ話もしたいかな。たとえば教員も学生も、性指向を理由に差別的な態度を取ってはいけないってことを学則に入れてほしいし、書類上の性別に違和感を持っている学生が使えるトイレをキャンパスにも設置してほしいとかね。」
「時間の制約が5分だけだからなあ。どう話すかはミヤちゃんに任せるよ。一通りそういう話をしてもらったら、最後に、俺はミヤちゃんの活動を応援していますって便乗して言おうと思ってる。」
「なるほどね。それなら確かにカミングアウトの必要もないよね。ただ、5分は短いな。」
和樹は笑った。「そう言うと思った。」
「でも、そこでそういう活動があるってことさえ伝えられれば、あとの詳しい話は3号館へ来てねって言えばいいんだもんね。ミスコンなら人も集まるだろうし、うん、いいかも。」
「良かった。」
「でも、失格にならない? トックンの自己PRの時間に僕が出たら。」
「歌の伴奏とか、手品の助手ぐらいなら手伝いもOKだって言ってたから、絶対一人でやらなきゃならないルールはないと思う。まあ、それで失格になるならなるで構わないしさ。」
「そう? トックン、優勝できるかもしれないのに、僕のせいでダメになったら申し訳なくて。」
「優勝なんかしないって。」
「一応、原稿作って、トックンに見せるね。」
「うん、ありがと。これで下手な一芸をしないで済む。」
「こっちのセリフ。アピールの場ができて、助かった。」
すんなりと話がまとまって安堵していると、突然宮脇が「サッキーは優しい?」と言い出して、和樹は飲みかけのコーヒーを噴き出しそうになる。
「な、何の話。」
「彼も彼の大学で、こういうこと、やる気はないのかな。連絡先教えたけど、特に何の音沙汰もないし。」
「うん、悪いけど、そういう活動には興味がないって。」
「あ、そう。残念。」
「でも、あっちにも似たようなサークルはあるんだって。涼矢じゃなくて、その友達が言ってた。そいつもゲイで。」
「へえ、そんな友達がいるんだ?」
「まあね。」
「遠距離で、向こうにはゲイの友達がいて。トックン、心配じゃないの?」
「心配だよ。」和樹は苦笑した。
「でも、信用してんだ、彼のこと。」
「信用はしてる。けど、だから逆に。」和樹はそこでふと黙った。哲をハグして一晩を過ごした。その話を聞かされた時の引き裂かれるような思い。「浮気とかする奴じゃないのは信用してる。だから、ダメになる時は、本当にダメな時だと思ってる。そういうの考え出すと、不安だし、怖いよね。」それから宮脇を正面からじっと見た。「ミヤちゃんは、ないの、そういうこと?」
「僕? 同じよ、好きになればなるほど不安になる。」
「今は好きな人いるの?」
「好きな人? うん、いるよ。サークル立ち上げるのに、他大で既に実績出してるところにいろいろ教わりに行ったんだけど、その時に知り合った他大の人。」
「つきあってる?」
「うん。まだつきあいたてのホヤホヤアツアツ。あ、今回は女ね。女で、3年生だけど、年は僕の1つ下。僕、みんなより3年遠回りして大学入ったから。」そう言えば涼矢にそんな話も聞いた。専門学校を出て、1年勉強してから大学に入ったのだと。
「優しい?」和樹はさっき自分がされた質問を投げ返した。
「優しいの、それが。厳しいところもあるけどね。今回の学祭の場所取りに失敗したのも、準備の段取りが悪いって叱られちゃった。でも、恋人モードの時は超優しいし可愛いんだから。」
「その女の子も、その……バイってこと?」
「どうなのかなあ。見た目ボーイッシュだし、女の子にもモテそうだけど、知らないな。興味ないし、聞いたこともないもんね。」
「興味ないんだ?」
「だって、関係ないじゃない。彼女がビアンだったら告らなかったわけじゃないし、マッチョな男が好みだとしても、諦めなきゃならない理由にはならないでしょ。」
「ミヤちゃんが先に好きになったんだ。」
「うん、そう。痛々しいぐらいに一人でなんでも頑張っちゃう子なの。やっぱり、そういう活動って全員に好意的に受け止めてもらえるわけじゃないから、誹謗中傷を受けることもある。でも絶対弱音は吐かないしね。もう、それが可愛くってね。」
「守ってあげたい、みたいな。」
「うーん。そうね、そういう気持ちもあるけど、それだけじゃなくてね、楽しくやろうよ、適当に力抜かないと最後まで走りきれないよって言ってあげたかったの。で、本当にそう言ったら、ビェーッて号泣しちゃって、そんな風に泣かせちゃったら、責任取らなきゃねえ? それで、一緒にやってこう、僕の前ぐらいは、肩の力抜きなよって言って。」
「やっぱり、男らしいんだかなんだか、よく分かんないな、ミヤちゃんて。」
「だから、そういうのって意味ないと思うの。男らしいとか女らしいとか。」
「あ……、ごめん。」
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