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第369話 君と見る夢(6)
――聞いてるよ。罵倒の言葉すら気分よく。
「変態。」
――それはちょっと聞き飽きたかな。
「聞き飽きるほどの変態行為の数々をしてきたっつうことだろ。自覚しろ。」
――前から言ってるけど、自覚はしてるよ。否定したことないだろ?
「開き直るんじゃねえよ。」
――開き直ってもいないよ、俺は最初からこんなだよ。
「そんなことねえよ、最初のうちはもうちょっと……。」
――もうちょっと?
「もうちょっと、か、可愛らしいっつうか。恥じらいっつうか。」
――へえ。可愛らしかったんだ、俺って。
「そんなわけあるか、デカい図体して。」
――今、和樹がそう言ったんだろ。つか、おまえだって充分可愛いよ、今も。デカい図体してるけど。
「ああ、もう、おまえと話してると頭が変になりそう。」
――俺もだよ。
「……俺が言ってるのとは、ニュアンス違う気がするんですけど。」
――どうだろうね。違うかどうか、答え合わせしてみる? 俺が言ってるのは、性的な意味で、平常心が保てなくなるという……。
「黙れ。俺はな、今、教育問題に立ち向かっていてだな、変態の相手はしてらんねんだよ。」
――さすが都倉先生。
「その呼び方やめろ。」
――だって、そう呼ばれてるんだろ?
「おまえはダメ。」
――俺も和樹の生徒になりたかったな。
「気持ち悪ぃこと言うんじゃねえよ。」
――おまえが先生だったら、絶対好きになっちゃうよね。ほんと、気を付けろよ? 絶対おまえに惚れる生徒がいるから。隙を見せるなよ?
「馬鹿なこと言ってんじゃない。もう、いいや、風呂入ってこい。俺も入る。」
――分かった、じゃあ一緒に風呂入ってる想像しながら入るから、和樹も想像して。
「アホか。」和樹は電話を切った。
和樹はバスルームに向かう。電話する前はシャワーだけで済ませるつもりだったが、バスタブにお湯を張ることにした。
――別に、涼矢にあんなこと言われたからじゃないからな。
誰に言い訳する必要もないのに、そんなことを思いながら、お湯が溜まるのを待った。
バスタブは狭くて、膝を抱えるようにしないと浸かることができない。涼矢が言っていたような、2人一緒に入れるほど広いバスタブなら、1人で入ったって快適だろう、と思う。でも、それだけ広いとなると、お湯も大量に使うし、沸かすにも時間がかかるし、不経済だろうとも思う。そして、所帯じみたことを考えるようになったものだと1人で苦笑する。
この狭い風呂に、それでも2人で入ったことがあったな、と思い出した。バーベキューの日だったか。先にお湯に浸かっていた涼矢に重なるようにして入った。それから、体を回転させて、対面の姿勢になった。そして、涼矢にしがみつくようにして、キスをした。股間に涼矢の昂ぶりをダイレクトに感じて、けれどここではうまく動けないからと、2人して急いでベッドに移動した。その後は。
「ああ、もう。」そんなことを思い出せば、どうしたってこうなる。和樹はゆっくり温まることを諦めて、やはり、ベッドに直行した。まだ水滴の残る体にバスタオルをまきつけて、ベッドに寝転んでリダイヤルした。だが、涼矢は出なかった。小さく舌打ちして、スマホを枕元に放った。
「んっ。」自分の手の中のそれを、ゆっくりしごく。最近の涼矢は、こんな風にゆっくりと愛撫する。涼矢の指を、舌を思い出しながら、徐々に快感を高めていく。ほとんど声は出さないが、息は荒くなる。
その時、スマホに電話が掛かってきた。涼矢の名前を確認して、電話に出た。
――電話くれた?
「ああ。今、風呂から出たのか?」
――少し前。髪を乾かしてたから、気付かなかった、ごめん。
夏に来た時、涼矢が「寝癖がつきやすいから」と、時間をかけてドライヤーで完全に乾かしていたことを思い出す和樹だった。
――それで、何? 何か言い忘れたことでも?
「そういうわけじゃねえけど。」
――ただ声が聞きたくなった?
半笑いで涼矢が言う。
「そうだよ。」
――え。
「声が聞きたかったの。」
――あぁ……。あ、そう、なんだ。
今度は照れている様子だ。
「さっきのじゃ足りない。」
――何話す? これといって面白いネタはないんだけど。
「おまえにそんなの、求めてねえよ。」
――じゃあ、何を求められてるわけ?
「おまえが変なこと言ったから。」
――何の話だよ。
「おまえがさっき、一緒に風呂とか言うから。責任取れよ。」
――ああ、想像してくれたんだ?
「早く何とかしろよ。萎えるだろ。」
――何、もう、そんな状態?
「電話に出ねえから。」
――一人で先に始めちゃったんだ?
涼矢は、ふうん、と意味ありげに呟いた後、言い出した。
――今、ヘッドセット使ってる? 両手使える?
「ヘッドセット、箱ん中だ。」
――そういうことしたいんなら、ちゃんと先に準備しとけよ。じゃあ、とりあえず、スピーカーにして、スマホ置いて。両手使えるようにして。
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