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第371話 君と見る夢(8)
――いつも言ってるだろ。
「言うかよ。」
――言ってるよ。バックのほうがいい? 今ベッド?
「ベッド。」
――俺、椅子座ってる。パソコンとこの。
涼矢の部屋の様子が鮮明に脳裏に浮かんだ。
「おまえもベッド行けよ。」
――うん。
移動中らしき雑音が聞こえた。
「勃ってる?」
――うん。……ねえ、俺さ。
「何?」
――さっきのね、一回出したやつでべとべと。
「やらし。」
――ローションなしで挿れられるよ。
「……ん。」
――想像した?
「した。」
――挿れてい?
「うん。あ、でも、ちょっと待って。ゴム着ける。」
――なんで。
「汚すと後が面倒。」
――前からそうしてた? 一人の時でも?
「うん、たまに。」
――だからか。
「何が。」
――ゴムの減りが早いなって思ってた。夏の時、たくさん残ってると思ったのに、10月にはほとんどなくて、買い足したから。
「怖え。超チェックされてる、俺。」
――してるよ。和樹のことなら、なんでも。
「どこが気持ちいいのかも。」
――そう。耳とか、乳首とか、あとつま先に……。
「全部。」
――え?
「全部気持ちいい。おまえのすること。」
――縛るのも?
「うん。」
――あそこ舐めるのも?
「めちゃくちゃいい。」
――何が一番いい?
「そりゃあ……。」
――言って? おねだりして。今。
「……挿れて。」
――和樹のね、すごく気持ちいいよ。いつも。
「やめ。」和樹の息が上がっていく。
――前も触っていいよ。
「ん。」和樹はペニスも握る。
――ホントは、中だけでもイケるのにね。
「おまえがっ……。」
――俺? 俺が和樹をそうしちゃった?
「……だろ。」
――嬉し。
「は……も、形、覚えたし。」
――それも、俺じゃないとダメ?
「ん。」
――言って。
「涼……じゃない、と……だめ……。」
――俺じゃないと、何がだめなの?
涼矢の声も上ずっている。
「イケない、涼矢の挿れらんないと、イケない。」
――イキたい?
「ん。」
――なんて言うの?
「……イカせて。」
――うん、挿れるね。和樹のここ、熱くて、すげえ気持ちい。
そう言われても、もうその後は言葉にならない。ただ喘ぐだけだ。涼矢の荒い息遣いも聞こえてくる。
――奥もね、締め付けてる。分かる?
涼矢に見えないのは承知だが、コクコクと頷いた。
――あ、イキそ。
涼矢のそんな切羽詰まった声にとどめを刺されるように、絶頂を迎える。「涼、好きっ。」と口走りながら放出した。それと同時に、涼矢も、んっ、と呻いた。
「イッた。」
――俺も。一人ですんのとは、やっぱ違うな。
「涼矢もするんだ?」
――そりゃしますよ。最近、やばい。
「何が。」
――毎日してる。1回じゃ済まなかったりもする。
「涼矢くんたら猿ですか。」
――こっち戻って来てから、しょっちゅうメシ食うの忘れるんだよ。知ってる? 飢餓状態が続くと、性欲が強くなるの。
「また、適当なことを……。」
――本当だよ。ネットで前見たんだけど、断食体験した人がそんなこと書いてた。何日間か水だけで過ごして、空腹感のピークを乗り越えると空腹を感じなくなって、頭が冴えまくる瞬間が来るんだって。そんで、食欲より性欲がやたら湧くんだって。あ、ほら、和樹も言ってただろ、雪山とかで死にそうになった人がやたら性欲湧くって。似たようなもんじゃない?
「んじゃあ、ヤリに来いよ。車飛ばしてさ。」
――今の勢いでやったら、和樹のこと、壊しちゃうよ。
「マジかよ。すげえ期待するわ。すぐ来い。」
――行きたいよ。本当にね。
その声がやけに実感がこもっていて、和樹はそれ以上からかうのをやめた。
「年末、俺が帰るまで、その性欲をキープしとけよ。」
――そのためにはずっと飢餓状態を続けないと、だ。俺、その頃にはミイラみたいになってて、性欲はあっても体力がなくなってるんじゃないかな。
「馬鹿、冗談だよ。ちゃんと食え。」
――いつもと逆だな。おまえが俺のメシの心配するなんて。
「そうだな。」
――ちゃんと食うよ。おまえも。
「おう。」
――じゃあ、スッキリ抜いたところで、今日のところは。
「身も蓋もねえな。」和樹はつい笑ってしまう。
――湯冷めしないように、温かくして寝なさいよ。
「今更だっつの。」
――愛してるよ。
「ああ、はいはい。」
――それだけ?
「俺も愛してる。」
――うん。じゃ、また。
「明日な。」
また明日、も、こんなことをするんだろうか。和樹は電話を切った後も、しばらくドキドキしていた。際どい会話は時折していたが、それは高校生の頃の、部活仲間とする猥談と大差なかった。今日のように直接的にお互いを高め合うような会話は、例の録音騒動の時以来だった。あの時は、自分ばかりが恥ずかしい思いをさせられたから、今日はそのリベンジのつもりでもあった。録音などという姑息なことはしないけれど、しっかりと記憶に刻みつけてやろうと思っていたのに、涼矢が具体的にどんな言葉を口にしたか、自分はそれにどう答えたのか、特に自分の反応を思い出そうとすると羞恥心が邪魔をして思い出せない。つい今しがたしたばかりの会話なのに、もう既に曖昧な記憶だ。
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