既に終えた３人は、歌だったり、空手の形を披露したりした。直前の１人がショートコントをやり、会場は盛り上がりを見せて、逆に和樹は更に緊張してしまう。ここでミヤちゃんのシビアなスピーチが始まったら、途端に白けてしまうんじゃないか。何を言ってるんだこいつらは、という目で見られるのではないか。 　ドキドキしながらステージの中央に出た。宮脇がそのすぐ後から、踊るようなステップを踏んで、出てきた。今日の宮脇は、ズボンも穿いているものの、その上にチュールスカートを穿き、頭には大きなリボンまでつけていた。それだけで会場がドッと湧く。この２人も何かお笑いをやるのだろうと期待している空気が感じられた。 「４番。経済学部１年、都倉和樹です。今日は友達の宮脇くんから皆さんへのメッセージを伝えてもらいたいと思って、ここに来ました。宮脇くんがこれから話すことは、僕も賛同してる活動で」話している途中で、宮脇がマイクを奪った。 「ハーイ、ご紹介に預かりましたミヤちゃんでっす。時間ないので、トックンのつまんない紹介は飛ばして、みんなあたしのことだけ見てちょうだい。あら、そこのあんた、なんで目を逸らすのっ。いいわよ、見たくない人は耳だけこっち。話聞いてくれればいいわ。でも、みんながちゃーんと見ててくれたら、ご褒美にトックンが素敵な上半身を披露してくれるわよぉ。彼、水泳部出身で、そりゃもうイイ体して」 「何言ってんの、ミヤちゃんっ。そんなの打ち合わせにないだろっ。」 　和樹が本気で焦るのを見て、観客が湧く。 「ねえ、楽しみよねえ？　そういうわけでぇ、あたしの話をはじめまぁす。あたしは、今あたしって言ってるけど、普段は僕って言ってるのね。ね？」 「あ、そう言えばそうだ。」原稿にない展開だが、和樹はつい返事をする。 「今日は可愛いスカートとおリボンもつけてきたんだけど、これも普段はしてないのね。ね？」 「ああ、うん。いつも変なカッコだけど、スカートとリボンは見たことない。」 「やだ、変なカッコって、トックンそんな風に思ってたのっ。」 「みんな思ってるよ。今ここにいる人たちも多分。」 　会場から拍手が湧いた。 「ひどいわあ。でもね、つまりこれがあたしなの。みんなもね、今あたしが男か女かオネエかなんなのかって混乱してるでしょ。でもあたしはどれでもないし、どれでもある。あたしの体は男の子だけど、可愛い服が好き。女の子とつきあってるけど、男の子とつきあったこともある。あ、ちょっと待って、今のは嘘だわ、男の子じゃなくて、すごい年上のおじさんとつきあったのよ。可愛い男の子も好きよ、ほら、このトックンとかね？」宮脇は和樹の顔を両手で挟んだ。 「や、やめて。」 　顔を歪ませる和樹に、また会場が沸いた。宮脇は手を離し、続けた。 「こういうイケメンに生まれればイージーモードだと思ってるブサイクちゃんたちもいるかもしれないけど、そんなことはないのよ。軽薄そうに見えるトックンだって結構いろいろ考えてるし、悩みだってあるのよ。たとえばここ３日ばかりウンコが出てないとかね。」 「なんでだよ、快便だよっ。」 「あらそう、お肌が荒れ気味だから、てっきり。まあトックンのウンコ事情はどうでもいいんだけど。」 「ミヤちゃんが言い出したんだろ。」 「まあそれでね、あたしたちは何かと下半身にトラブルを抱えがちだったりもするんです。」 「たちって言うな。」 「うるさいわね、じゃああたしって言い直すわよ。あたしがかつてつきあってたおじさまね、親子ぐらい年が違ってたんだけど、その人があたしに教えてくれたことがあるの。それはね、Ｈの時にはコンドームつけろよって話。」 　これも原稿にはない話だった。和樹は思わず宮脇の腕をつかむが、宮脇は話をやめなかった。 「その人と初めていい雰囲気になった時、彼はＨＩＶポジティヴだって言い出したの。でも、薬で治療して、もう感染しないレベルにまでなってるし、コンドームもつけるからって言うの。あたしなんだか怖くなって逃げ出しちゃったわ。だってそれまでつきあった人は誰もそんなこと言わなかったから。でも考えてみて。それを隠されたまま何の対策もしないでＨしちゃうことのほうがずっと怖いのよね。それからもっと最悪なことにも気が付いた。自分自身がどうなのかを、あたし、知らなかった。だからあたしもＨＩＶ検査した。ネガティヴだった。でもそれまでの自分の行動を考えたら、そんなのは単なるラッキーだった。あたし、彼に謝ったわ。残念ながら、別のことが原因でその人とは別れちゃったんだけど、彼には今でも感謝してる。」 「ミヤちゃん！」ステージ袖にいた彩乃が叫んだ。原稿を全く無視した内容だったからだ。 「あたしはその頃無知だったから、ＨＩＶと聞いたらすぐエイズって思ってしまったんだけど、もちろんＨＩＶポジティヴだからって即エイズになるわけじゃないし、良い薬もあって発症せずに今まで通りの生活を送れる人も多いわ。必要以上に怖がらないでほしい。でも、そもそもセックスで移る病気はエイズだけじゃないでしょ。それに望まないタイミングの妊娠は、特に女の子の心身を傷つけるわ。そうなる前に、パートナーと正しい付き合い方をしなくちゃいけないってことを知っておいて。あなたもあなたのパートナーも浮気なんかしないし、変な風俗店にも行かないかもしれない。でも、彼氏の元カノはどう？　その元カノの元カレは？　そんなの分からないでしょ、だからちゃんと、セックスの時にはコンドームをつけて。」