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第374話 君と見る夢(11)

「ストップ! マイク止めて」彩乃の指示する声が飛ぶ。 「ごめんね。もうすぐ終わるから。」と宮脇は彩乃に向かって言った。それからまた観衆のほうへと向き直った。「今日ここであたしはこんな話をするはずじゃなかったの。都倉くんも、運営のみんなも、迷惑かけてごめんなさい。責任は全部あたしにある。でもあたし、まだまだたくさん話したいことがあるの、でも、今はその中でも一番大事なことを言うべきだと思って、それを話した。今話したことでも、それ以外のことでも、LGBTのことに興味があったらあたしのところに来て。3号館で待ってるから。取って食いやしないけど、まだあたしと直接話す勇気はないって人のために、教室の中まで入らなくても取れるところにパンフレットを置いておく。ホームページもあるからそれ見て連絡くれてもいい。サイトの名前は◎◎◎、それで検索して。それから」 「時間です。」サークル長が厳しい声で言った。宮脇は素直にそこで黙った。 「トックン、ありがとう。ごめんなさい。」と小声で言ったが、マイクはそれを忠実に拾った。 「謝らなくていいよ。」と和樹が言う。その声はマイクは拾わなかった。和樹は改めてマイクを手にした。「俺はミヤちゃんの活動を応援してます。俺は何の役にも立ってないし、知識もない。けど、人が人を好きになることに対して、差別や偏見を持ってはいけないし、そのことで苦しむ人がいるのはおかしいと思ってます。だから、今日、彼にお願いして話してもらいました。何か感じるところがあったら、是非、彼のブースに行ってみてください。よろしくお願いします。」  頭を下げる和樹の隣で、宮脇も頭を下げた。  一瞬の静まりの後、拍手が湧いた。宮脇と顔を見合わせ、ハイタッチして、ステージを降りた。  その後数人が自己PRをし、投票と集計の後に、結果発表となった。審査員として選ばれた学生が持ち点10点を持ち、その場にいた観衆も「一般審査員」として1人1点として投票するシステムだ。結果として、優勝は下馬評通りの4年生がさらっていき、和樹は3位に終わった。  その夜、和樹は渡辺と彩乃、それに鈴木という顔ぶれで、ファミレスで夕食を食べることになった。明日が学園祭の最終日だから、サークルを挙げての打ち上げは明日のはずで、その前哨戦のようなものだ。宮脇はいつの間にか姿を消して、その場にはいなかった。 「もう、びっくりしたわよ。」と開口一番、彩乃が言った。 「俺のこと?」和樹は気まずそうに言う。 「そうよ。正確にはミヤちゃんだけどね。」 「全然違うこと話し出すんだもんなあ。」と鈴木も言った。 「ごめん。」 「でも、おまえも知らなかったんだろ?」渡辺が助け舟を出してくれた。 「知らなかった。」和樹はステージ上の宮脇の横顔を思い出していた。止めなくてはとは思って腕をつかんだものの、宮脇の気迫にそれ以上のことはできなかった。それに、宮脇が何を話すか知りたい気持ちもあった。 「実はね。」と彩乃が言った。言ってから隣の鈴木に「言ってもいいよね?」と確認した。 「そんな言い方したら、言わなくちゃ悪いよな。」と鈴木は言った。 「なになに。」と身を乗り出したのは渡辺だ。 「一般審査員の……つまり、あの場にいた観客の得票数は、都倉くんが1位だったの。」 「えっ。」 「でも、審査員は全員、あの優勝した4年生に入れてた。」 「それ、ヤラセじゃねえの。」と渡辺。「それにさ、全員そうしたとしても審査員は10人だろ。合計でも100点だろ。あそこにいた観客、200人以上いたよな?」 「全員が投票したわけじゃないのと、あと、こういうの。」彩乃は投票用紙を見せた。和樹の名前に○印がついているが、余白に「宮脇くんに1票」と書いてあった。 「これって……。」和樹は彩乃の顔を見た。 「関係ない人の名前を書いたら、無効票になっちゃうのよ。そういうのが結構多くて。」 「こうやって宮脇とかミヤちゃんとか書いたり、あと、都倉の名前に継ぎ足して、その隣でスカート穿いてた人って書いてる奴なんかもいて、そういうの合わせると30票ぐらいはあったよな。」と鈴木が言った。 「そうなの。その分を都倉くんの得票から差し引いたら、あの結果になったのよ。」 「ええっ。」と渡辺は不服そうな声を出した。 「実質ミヤちゃんが優勝かもな。」と鈴木が笑った。「優勝した奴より、都倉より、あいつが一番目立ってたもんな。」  鈴木が笑っているのを見て、和樹はホッとした。この件で一番とばっちりが行くのは、サークル内では1年のリーダー格の鈴木だと思っていたからだ。「ホント、ごめん。先生や先輩に怒られなかったか?」 「怒られないよ。」鈴木はまた笑った。「別に、悪いことしたわけじゃない。俺個人としては、ごく真っ当なことしか言ってないと思ってるよ。ヒヤヒヤしたのは事実だけどな。」 「ちょっと鈴木くん、笑いごとじゃないわよ。私、先輩たちに散々頭下げたわよ。」 「ご、ごめん。」和樹は彩乃にも謝った。 「先輩たち、別に怒ってなかっただろ。勝手に彩乃が謝って回っただけで。」鈴木は彩乃、と呼び捨てにした。

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