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第378話 君と見る夢(15)

「よう。」宮脇とあんな会話をした直後に涼矢と話すとなったら、いつもどんな風に電話に出ていたか、分からなくなった。 ――今日じゃなかったっけ? ミスコン。 「よく覚えてんな。そうだよ。3位だったけど。」 ――優勝じゃなかったんだ。 「するかよ、言ったろ、暗黙の了解で4年が優勝するんだって。今回も審査員は全員同じ4年の奴に入れててさ、ヤラセっぽかったなあ。でも、俺、観客からの得票数はなかなか良い線行ってたらしいよ?」 ――だよね。和樹、カッコイイから。 「はいはい、どうも。」 ――今日まで? 学祭。 「明日まで。」 ――うちと同じか。 「おまえも行ったの? 自分とこの学祭。」 ――ちらっと顔だけ出した。知り合いがいるところだけ。 「また哲か。」 ――違うよ。でも、奴と一緒にレポートやったグループの女の子の屋台には行った。 「へえ、おまえが女友達に義理立てして学祭へノコノコとねえ。それで、その子が作った焼きそばでも食ったか。」 ――クレープ屋だったから、クレープ。生チョコバナナ。  和樹は吹き出す。「似合わねえ。」 ――口ん中が甘くてしょうがなかったから、追加でハムチーズも作ってもらって食べた。 「自分で作ったほうが美味いとか思っただろ。」 ――和樹んちのホットプレートで作れそうだなって思った。 「今度来たら作ってくれよ。」 ――うん。……なんか今日、やけに陽気だね。 「え、そうか? あれかな、ミスコンで評判良かったから。」 ――ちょっとチヤホヤされたからって、調子に乗るなよ。 「ヤキモチですか。」 ――おまえは俺にだけチヤホヤされていればいい。 「それって、独占欲?」 ――そうだろうね。 「おまえ、さ。涼矢はさ。」 ――ん? 「それでいいの? 損してるなって思わない?」 ――何が。 「このまま俺とつきあったとして。おまえ、俺しか知らない人生になるよな。」 ――あ? つきあう相手の話? 「ま、そうだ。もっと言うと、セックス相手の話。」 ――その点も含めて、おまえに不満はないから、損だとは。 「あぁ、それは、ありがとう。」 ――それって、和樹は物足りないってこと? 自分が俺以外とももっと経験したいから、俺も適当に浮気してもいいよって? 「馬鹿、そんなんじゃねえよ。」 ――元カノ3人の話は、前に聞いたな。それが俺以前のおまえの経験相手全員かどうか知らないけど、ま、俺らの高校じゃ3人経験してりゃヒーローでも、生涯で考えたら3人って別に多くはないもんな。もう少し他も知りたいって気持ちは分からなくもないよ。けど、俺としてはやっぱりそういうのは。 「違うっつってんだろ!」思いのほか大きな声が出てしまって、和樹は焦った。「あ、ごめん。いや、本当に、そういう意味じゃない。浮気とかそんなん、全然思ってねえよ。逆に今、俺、そういうのすげえ反省してて。」 ――反省? 「……だから、その、そんなの1人でいいんだよ。運命の相手は1人でいいんだ。最初につきあったのがそれなら一番幸せだと思うし、運命の相手とも思えない奴とつきあったってロクなことになんねえって、今になって、思ったり、してます、うん。」 ――なんなの、それ。なんかあったの? 「何もない、です。」 ――ありますよね? 「……まだちょっとおまえには言えねんだわ。悪ぃ。」 ――いつかは教えてくれるわけ? 「たぶん。」 ――たぶんなんだ。 「ごめん。」  涼矢は黙ってしまった。しばらく気まずい沈黙が続く。 「あっそうって、流してくれるかと思ってた。」弁明する代わりに、和樹はそう言った。 ――俺、そこまで心広くないよ。たぶん、か、いつか、のどっちかぐらい、はっきりさせてくれてもいいと思うんだけど。 「……じゃ、いつか、のほう。1ヶ月以内には。」さっき見ていたHIV関連のサイトには、検査から1週間程度で結果が聞ける、と記載されていたと思う。いつ検査を受けられるか分からないが、1ヶ月以内には何らかの結論は出ているだろうと踏んだ。 ――分かった。 「あのさ、ホントに、他に好きな奴できたとか、別れ話とか、そんなんじゃねえから。」 ――そう言うってことは、俺たちの話なんだね?  今度は和樹が黙り込む番だった。 ――まあ、いいや、1ヶ月後に聞くから。 「ごめん。」 ――ていうか、1ヶ月後ってもう、おまえ、こっちに戻ってるんじゃない?  時計は12時を過ぎて、日付が26日になったところだ。帰省を予定しているのは、ちょうど1ヶ月後だ。 「ああ……そう、そうだな。それまでには。」 ――クリスマスに落ち込みたくねえな。 「クリスマス。そっか、それもあるんだ。」ということは、去年の今頃、俺は綾乃と別れたんだ。和樹は1年前を思い浮かべた。綾乃に相談もせずに、イブに冬期講習を入れたのが別れ話の引き金だった。そして、今度は冬期講習という単語からの連想を始めた。「帰省、できっかな。」 ――え、なんか面倒なことに巻き込まれてんの? それもさっきの話関連? 「あ、いやいや違う、考えてみたら、冬期講習があるかなって。塾のシフト、確認しとかなきゃ。」後半はほぼ独り言だ。

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