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第388話 Sweet Dreams(6)

 翌日も前日と大体同じ流れだったが、前日の反省を踏まえて、会費は先に徴収して、それと引き替えにビンゴカードを配るようにしたり、主要なアレルギー食材の使用状況を書き出して、料理の皿の手前に分かりやすく表示するようにしたりといった工夫が付け加えられた。  千佳はオープンと同時に、佐江子は1時間ほど遅れて姿を現した。千佳は別の女友達を連れてきていた。見慣れない顔だと思っていると、高校は同じだが別の大学の友達だと紹介された。  佐江子は、常連仲間らしい中年の集団にいつの間にか溶け込んでいた。それをいいことに、涼矢は千佳に佐江子を紹介することもなく、他の客と同じように扱った。佐江子のほうからも約束通り、話しかけることもなかった。あとは哲が余計なことを言わなきゃいいが、と危惧していたけれど、それもなかった。  そんなことをしている余裕がなかった、というのが正しかった。  予約が少ない、と言っていた割に、蓋を開ければ前日以上の賑わいだったのだ。涼矢が佐江子を、哲が千佳を呼んだのと同様、シェフのセイさんやバーテンダーのゲンさんといったスタッフが、それぞれの身内や友人を呼び、更にその友達を同伴するなどしたおかげのようだ。  パーティーの目玉のビンゴでは、千佳が年代物のワインを当てた。「おめでとう、喜びの一言をどうぞ。」とアリスに言われ、「まだ未成年だから飲めなくて……来年の楽しみに大事に取っておきます。」と、はにかみながら答えると、アリスは「あら、だったらそれまでうちで保管しておくから、ここでみんなで20歳のお祝いしましょうよ。初めて飲むならどうせ味なんか分かりゃしないから、こっそり安いワインに取り替えちゃうけどねっ!」などとジョークを飛ばした。だが、千佳が生真面目に「はい、そんな風にお祝いできたら嬉しいです。」と言ったので、アリスのほうが少しおろおろして、みんなの笑いを誘った。  そうして2日目も盛況の内に終わり、お客をひとりひとり見送った。最後に1人、佐江子が残る。 「さっちゃん、来てくれてありがとね。」 「枯れ木も山の賑わいと思って来たけど、必要なかったみたいね。」と佐江子は笑う。 「そんなことないわよ、立派な壁の花だった。」 「それ全然褒めてない。」 「ねえ、それより、どうよ、おたくの息子、格好いいでしょう?」 「少しは役に立てた?」 「すっごく役に立ったわよ。」 「涼矢は、手先は器用だけど、口先はあんまり、ね。こういう仕事には不向きでしょ。良い勉強させてもらったとは思うけど。」 「そこは哲ちゃんがうまくカバーしてくれて。」  アリスのその言葉に、哲は不満を隠さない。「俺は口先担当?」 「違うの?」と言うアリスと、「そうだろ。」と言う涼矢の声が重なった。 「はあ?」哲は何か言いかけて、その瞬間、急に黙った。「あ、ちょっとすみません。」そそくさとその場から離れて、何事かと思っていると、さっきスタッフルームから出してきた自分のバッグを探った。スマホを出して、画面を見る。涼矢は気づかなかったが、着信音が聞こえたらしい。哲は真剣な顔でスマホを見ていた。そして、「店長、すぐ戻りますから、10分ぐらい、出てきていいですか。」と言った。アリスが了承すると、ギャルソンエプロン姿のまま表へ出て行った。 「さてと、私も何か手伝おうか? 片付け。」と佐江子が言う。 「いいわよ、そんなの。涼矢くんと一緒に帰る?」 「そうね。飲んじゃったから。」 「自分の車は? 乗ってきたんだろ?」 「明日取りに来る。」 「まったく。」 「じゃあ、お茶でも飲んで、待ってて。」  そんな風にして、佐江子がソファでお茶を飲んでいる間、アリスと涼矢で後片付けを始めた。昨日よりモタモタする気がする。昨日は哲がてきぱきと指示を出してくれていた。アリスもそれなりに指示はしてくれるが、「このテーブルをあっちに移動してくれる? あ、やっぱりもう少しこっちのほうが、通路が広く取れていいかしら。いや、やっぱりこれがそっちがいい。」などと余計なことを言うので、なかなか捗らない。  しばらくして、哲が戻ってきた。外は寒いのに上着も着ないで出て行ったから、ぶるぶると震えて自分で自分を抱えるようにしている。 「あ、すみません、やります。」早速作業に取り掛かる。その言い方がやけにきっぱりしていて、どうしたのか、何かあったのかという質問はシャットアウトされてしまった。  哲が来るなり順調に作業は進み、そこからは10分ほどで終わった。  アリスは涼矢にアルバイト料の入った封筒を渡す。涼矢はぺこりと頭を下げて、それを受け取った。 「お母さんと帰るの?」と哲が聞いた。 「うん。」 「ちょっと、いい?」哲は涼矢の肩に手を回し、涼矢を外に連れ出した。今回はアリスに了承を取ることもしないが、普段とは少し違う哲の雰囲気のせいか、引き留められることはなかった。  肩に回された手は多少不快ではあったものの、涼矢もまたいつもと違う哲に気圧されるところもあって、無理に振りほどくことはしなかった。そのうち、哲のほうからその腕を外した。

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