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第401話 bless you! (6)

「い、今、ここ、で?」 「東京はさ、駐車場も住宅街のど真ん中にあったりしてさ。車の中にいても人から見られそうだった。でも、ここだったらね。」 「なんでそんな平然とそういうこと言えるのかね、きみは。」 「そう見える?」涼しい顔で運転を続ける涼矢。 「見える。」  涼矢の車がスーッと脇道に入る。このまま進めば山道につながり、山を越えるつもりの車しか通らない、つまりこの時期、この時間帯には誰も通らない、道だった。だんだんと木が増えていき、さっきまで走っていた海沿いの道からの視線を完全に遮るほどになった頃、涼矢は大して太くもない道路の、それでもめいっぱい路肩に寄せて、停車した。涼矢はシートベルトを外し、つられるように和樹も外す。 「そんなこと、平然と言えるわけ、ないだろ?」運転席から身を乗り出して、助手席の和樹の頭を自分の胸元に抱き寄せた。「ドキドキしてんの、分かんない?」  ドキドキしている。それは確かだった。だが、それが自分なのか涼矢なのか分からない和樹だった。 「まだ少し、明るい。」だいぶ薄暗くはなった。けれど、もし誰かがそのつもりでこの車を見れば、そこで何をしているのかは分かるだろう。 「すぐ暗くなる。見られちゃまずいようなことをする頃には、真っ暗になってるよ。」そう言って、涼矢は和樹の顎を上げさせ、口づけた。 「キスぐらいなら、見られてもまずくないんだ?」和樹は笑う。  その質問には答えずに、涼矢はニヤリと笑って「これ、フルフラットにならないから、あっちに移動していただけます?」と、後部座席を指差した。 「やる気満々だな。」和樹はそう言いつつ、いったん車外に出て、後部座席に移動した。反対側から涼矢も同様にする。 「満々だよ。」涼矢は早々に和樹をシートに押し倒す。全身を横たえる広さはないから、下半身はシートから半ば落ちてしまう。その投げ出された和樹の足の合間に、自分の膝をねじ込む涼矢。 「夜まで待てねえの?」 「待てないよ。」涼矢は和樹の首筋に舌を這わせた。潮風のせいか汗のせいか、舌先に少し塩気を感じる。「おまえさ、おふくろと飯食って、何気ない顔して俺の部屋に行ける? 行ってすぐヤる気になれんの?」 「なれるかも。」 「……そんならそれで、また抱くから。」 「は? ちょっ、そんな、待っ……あんっ。いてっ。」シャツの中に入ってきた涼矢の手が、和樹の乳首を摘まんだ。そのせいで反射的に体をつっぱらせたら、ドアに頭をぶつけたのだ。「狭っ。」と小さく文句を言う。 「これでもそこそこ広い方なんだけどね。」涼矢はキスを繰り返しながら、和樹のズボンのベルトを緩め、その中へと手を入れる。 「あ、こら、そんな、いきなりっ。」 「うるさいよ。」涼矢は和樹のズボンの左手を動かし続けたまま、右手の人差し指と親指で和樹の唇を挟んだ。 「んっ。」強制的にアヒル口のような顔になりつつ、和樹は体を引いた。嫌がったわけではない。シートからずり落ちそうになったからだ。腰を引くと、シートとの摩擦でズボンだけが少しずり下がった。涼矢は露わになった腰骨をチラリと見て、ちょうどいいと言わんばかりに、和樹のズボンをパンツごと足首まで引きずり下ろした。だいぶ日は落ちたが、まだ薄明かりはある。いくら地黒でも、その中では輝くように浮き出る肌の色。涼矢はわずかな隙間に、無理やり体を折り曲げて座り込み、和樹の太ももと、その内側にキスをした。「ひぁ……あ、んっ。」足首に絡まるズボンのせいで、広くは開けない両脚。だから涼矢の舌も、うんと奥までは入り込めないでいる。外で。車の中で。薄明かりの中で。いつ誰が来るとも分からないところで。それが恥ずかしくてたまらないが、やけに昂奮するのも事実だった。  足を開いてしまいたい。表面をただ愛撫されるだけでは物足りない。足を開いて、その中心を、涼矢に曝け出したい。そんな欲求が突き上げてくる。 「靴、脱がせて。」和樹がそう言うと、涼矢はシンデレラの靴をクッションに載せる従者のように、うやうやしく、脱がせた。ガラスの靴でもなんでもない、ごついスニーカーだが。だからこそ、こんな狭い中で、足先をモゾモゾさせるだけではうまく脱げなかったのだ。そして、それが邪魔で、ズボンを足から抜き取ることもできなかったのだ。和樹が何も言わずとも、涼矢はスニーカーに続いてズボンを完全に取り払った。  涼矢は和樹の片足を自分の肩に乗せて、既に半ば勃起している和樹のペニスを更にしごいた。久しぶりに涼矢に触れられたそこは、すぐに反応した。 「あっ……だめっ、涼、車、汚す……。」 「汚せよ。車に乗るたびシミ見てムラムラするから。」 「やだって、今の、ズボンの。ポケットに、ゴムあるから。」  カーセックスに備えて? いくら和樹でも、そんな用意周到なはずはない。以前、そうやって持ち歩くのが習慣だと言っていたから、その習慣が今でも続いているのか? 「いつも持ち歩いてんの。」言いながら、和樹に装着して、また、しごく。

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