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第403話 bless you! (8)
「あのさ。」涼矢は和樹のほうを見ずに話しかけた。
「ん?」
「変な風に誤解しないでほしいんだけど。」
「え?」和樹は緊張した。それは肩に回した手を伝って涼矢にも分かった。
ますます言いづらそうに、涼矢は小声で言う。「生でやんの、嫌? 怖い?」
「はいっ?」
「……ポケットに、ゴム、2つ入ってたから。で、和樹、その……検査、してたから。」
和樹は涼矢の横顔を見た。「へっ? いや。別に。2個入れといたのは、ただ単に、癖っつか。……って、ごめん、逆に、全然それ、考えてなかった。そ、そうだよな。それ、気にしなきゃなんねえとこだったな。」
涼矢はやっと和樹を見た。そして、ホッとしたように微笑んだ。「俺こそ、変なこと言って悪い。……あ、でも、2個入れる癖って、今までは2回ヤる前提……。」
「馬鹿、違えわ。えっと、だから、破けたりとか。そういう時の予備っつか。」
「ああ、なるほど。」
「でも、そっか。2個で良かったんだな、うん。2人とも、しといたほうが、いいもんな。」
「……俺は、いいよ、別に。しなくても。和樹が、しなくてもいいと思った時は。」
「さっきはホントに、シート汚しそうだと思っただけで。ごめん、それしか考えてなかった。深い意味なかった。ん、でも、分かった。生でヤリたい時にはそう言うから。あの、検査は、大丈夫だったし、だからおまえもそうしたい時は、全然、生でいいっつか……って、いや、そのっ。なん、なんでこんな話、外で。」和樹は真っ赤になる。
涼矢は笑って、和樹の頭を抱えるようにした。「おまえのそういうとこ、大好き。」
「もう、馬鹿にし、」と言いかけて、また和樹はくしゃみした。
「寒いよな。車、戻ろ。」
帰宅する。まだ佐江子は戻っていない。涼矢は一息入れることもなく、夕食準備に取り掛かった。
「何かやることある?」と和樹もキッチンに来る。
「いえいえ、お客様ですから、どうぞ、お掛けになって、ゆっくりしてて。」
「嫌味だなあ。」
「なんで嫌味?」
「だって、うち来た時は、掃除も料理も、ぜんぶ涼矢にやらせてるだろ、俺。」
「……ああ、そう言えばそうだな。ま、いいんじゃないの。別に俺、無理してるわけじゃないんで。」
「なんかやらせてよ。」
「じゃあ、グラスとか、皿とか、出して。」
和樹は食器棚を開ける。「たくさんあって分からん。」
「大皿をひとつ。うん、その、右の。あと、取り皿が、その上の段。いや、それじゃなくて、もう一回り小さい奴。そう、それ。それを3枚。」涼矢は次々に指示を出した。
それから煮豚以外の副菜――ポテトサラダや、生ハムやカプレーゼといったオードブル――を作った。一通り作って、全体的な彩りはそう悪くないと思いながらも、和樹には物足りなさそうな気もして、冷蔵庫を物色した。冷凍の白身魚の切り身を見つけて、それにパン粉をつけてオーブンで焼いた。その間に缶詰のトマトの水煮でソースを作って、焼きあがった魚に添えた。
「クリスマスみたいだな。」出来上がった食卓を見て、和樹が言った。
「クリスマス、やりなおしってことで。」
「日本式に?」和樹が笑う。
「そう。カップルがいちゃつくほうで。」涼矢は和樹の腰を抱いた。くすぐったそうに身をよじる和樹をつかまえて、キスをした。
そんなことをしていたら、玄関で物音がした。佐江子が帰ってきたのだ。涼矢はとっさにテーブルの上を見る。温かいほうが美味しい料理はまだ温かいか。ワイングラスは磨き上げられているか。
「まあ、クリスマスみたい。」帰ってくるなり、佐江子は和樹と同じことを言った。
「こんにちは。お邪魔します。」和樹は深々と頭を下げた。
「いらっしゃい。お待たせしてごめんなさいね。」コートを脱ぎながら佐江子は言った。
「いえ、ちょうどよかったです。今、料理がぜんぶ出揃ったところで。」
「ぜんぶじゃない。」涼矢はトースターからバジルソースを塗って焼いたバケットを出した。保温を兼ねて、焼き上げたまま、トースターの中に入れておいたらしい。
「あと1分待って。」佐江子はそう宣言して寝室に引っ込むと、すぐにまた、いつもよりグンとオシャレな部屋着に着替えて戻ってきた。
「これでいい?」涼矢が手にしたワインを見ると、佐江子は頷いた。涼矢そのコルクを抜く間に、和樹に言って自分たちの分の麦茶を冷蔵庫から出させる。
「冬でも、麦茶?」
「そう。」
「ふうん。」和樹はグラスに麦茶を注ぐ。
「では、えーと、都倉くんとの再会を祝して、乾杯?」語尾を疑問形にして、佐江子が言う。
「乾杯。」苦笑しながら、3人でグラスを合わせた。
「メリー・クリスマスも言おうか。」と、食卓を眺めて、佐江子が言った。
「そうですね。」和樹も笑って同意する。「俺、クリスマスらしいこと、何もしてないし。」
「そうなの? じゃあ涼矢が一番それらしいことしたんじゃない? 聞いてるかな、この子、レストランで、クリスマスイベントやって。」
「労働してたんだよ、俺は。」
佐江子は涼矢をスルーして、和樹に話しかける。「都倉くんはアルバイトしてるの?」
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