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第417話 brand new day(3)

「うん。大学でもある程度は言っちゃってるしさ。親だって知ってるわけだし。」 「それもそうか。」和樹はおもむろに手を伸ばし、涼矢の顔を自分に向かせて、キスをした。 「なんで今?」涼矢は嫌がりもしないが、きょとんとした表情で和樹を見る。 「友達と親に知られたんだから、次はご先祖様にお知らせしなくちゃと思って。」  涼矢は反射的に仏壇を見た。「見てたかな?」 「見てるさ。」 「バチ当たんないかな。」 「ついさっき、そういうの気にしないって言ってたのに。」和樹は笑って、それから涼矢の後頭部に手をやり、自分に引き寄せ、もう一度キスをした。「それに、バチが当たるようなこと、した覚えないんだけど?」更にキス。今度は深く、舌を絡めた。涼矢も手を伸ばして、和樹の背に回す。2人はひとしきりディープキスを繰り返しながら、抱き合ったまま雪崩れるように畳に横たわった。それでもまだキスはやめずに何度もして、ようやく唇を離すと、今度は額をくっつけあった。どちらからともなく、くすくす笑い出す。 「おまえさ。」涼矢が笑いながら言う。「あれだろ、この部屋でも思い出作っておこうっていう。」 「はは。バレたか。」 「和樹が考えそうなことだ。」涼矢は和樹の額にキスをした。「でも、キスまでね。」 「なんでさ。」 「見られてるから。」 「だから、そういうの気にしないって言ってたじゃない。」 「ご先祖様がどうこうじゃなくて、顔写真があるから。だから、おまえの部屋、東京のじゃなくて実家の部屋、あそこも、ちょっと嫌だった。天井にポスター貼ってただろ。」 「視線恐怖症?」 「恐怖症ってほどじゃないけどさ。気になる。覗かれてるみたいで。」 「俺のこと覗いてたのに?」 「覗いてはいないよ。目に入ったらじっと見てただけで。」 「ホントかなぁ。俺のリコーダー、こっそり吹いたりしなかった?」 「高校でリコーダーなんかなかっただろ。俺、美術選択だったし。」 「俺、書道。」 「リコーダー、ますます関係ねえし。」涼矢は笑う。 「あっ、でも、俺の部活ジャージとかこっそり着てそう。うち来た時、すげえ嬉しそうに着てたもんな。」 「……。」 「涼矢くん? 何故黙るの?」和樹は笑いをこらえきれず、吹き出しながら言った。「もしかしてマジなの? マジでそんなことやってたの?」 「着てないよ。」こたつの中で、涼矢は和樹の両足の間に自分の片足を差し入れるようにした。「着てはいない。」 「何、その言い方。めっちゃ気になる。」  涼矢は和樹の首筋にキスをした。「見てただけ。ずっと見てた。おまえのこと。ジャージ姿も、制服も。」 「海パン一丁もな。」 「それは見ないようにしてた。」 「なんで。一番良いだろが。」 「だからだよ。」和樹の耳の下に舌を這わせた。「勃っちゃうだろ。おまえが水着ん時は、俺だって同じカッコしてんだよ。」  それに返事をすることなく、「んっ……。」と和樹が切ない声を上げたのは、涼矢が耳に息を吹きかけ、舐めたせいだ。それでもすぐに強気な表情に戻る。「ここじゃやんねえって、おまえが。」 「やんないよ。キスだけ。」 「キスは見られててもいいのかよ。」 「うん。」涼矢は唇にもう一度キスをする。「和樹は俺のだって、見せたいから。」それからこたつの中で、和樹の股間に手を伸ばし、触れた。「でも、その先の和樹は、誰にも見せたくないから。」 「言ってることとやってること違う。……この手はなんだよ。」和樹はそう責めつつも、涼矢にされるがままだ。 「こたつの中は見えない。」涼矢が和樹のズボンの中に手を入れた。スウェットはウェストゴムだから容易に中まで入り込む。「でも、おまえがそんなエロい顔してたら、ご先祖様にもバレちゃうかな。」その言葉に、和樹は涼矢から顔を逸らし、口元を自分の腕で覆い隠すようにした。顔が見られないように、また、声が漏れ出ないように。  2人が体勢を変えるたびに、腰や尻や足がこたつの枠に当たり、大して高くもない天板が浮き沈みし、こたつ布団がずれていく。涼矢の手はもう下着の中にまで入って、直接和樹のそこを触っていた。和樹の息が次第に浅くなる。 「なぁ、そういうの……ここじゃ無理。」和樹が腕越しの、籠もった声で言う。 「それはどういう意味で言ってるの。やめてほしい?」 「んなわけねえだろ。」 「言って。」 「ご先祖様に聞かれてもいいのかよ。」 「じゃあ、俺だけに聞こえるように言って。」  和樹は小さく舌打ちする。お互い分かっている答えをどうにかして相手に言わせたい。そんな攻防は大抵涼矢の勝ちだ。そして、今回も。和樹はぎゅっと涼矢に抱きついて、その耳に囁いた。「涼矢の部屋、行きたい。」 「漫画でも読む?」 「馬鹿。続き。」 「続きが、どうしたの?」 「続き、したい。して。」 「ん。」涼矢は和樹の頬に口づけた。  2人がこたつから出ると、天板は元の位置から大きくずれ、こたつ布団も乱れていた。だが、そんなことには目もくれずに、涼矢は和樹の手をひいて2階へと向かった。

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