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第419話 brand new day(5)

「誘って悪かったな。」 「そんなこと言ってない。ディナーは超美味かったよ。」 「とにかく、着ないぞ。」 「人にはスーツ着せたがってただろ。」 「あれはいいだろ。」 「なんでだよ、あれがいいなら、これだっていいだろ。」 「スーツはこれから普通に着るだろ。制服は高校生が着るもんだ。」 「俺が着てやるって言ったら?」和樹は涼矢の制服を自分の身に当てて見せた。 「それは……いいけど。積極的に着てほしい。」 「だったらおまえが着たって同じだろ。つうかさ、おまえ、ナース服だって何だって、俺が言うなら断らないって言ってなかった?」 「……なんでそういうことは覚えてんの。」 「東京来た時には、スーツぐらいまた着てやるからさ。」 「マジか。」 「露骨に嬉しそうな顔すんじゃねえよ、変態。」 「何とでも言え。」そうと決まると、涼矢はさっさと着替え始めた。もう一度クローゼットを開けて、ワイシャツやネクタイも出す。「あ、これ、おまえのか。」 「ああ、ネクタイな。」 「いや、ワイシャツ。おまえ、あの時、間違えて俺の着て帰って、そのまんま。」 「あっ、そうか。やべ、じゃあ、おふくろ、おまえのワイシャツもリサイクルに出しちゃったかも。」 「別にいいよ。もう着ないし。」そう言いながら涼矢はそのワイシャツの袖口のボタンを留める。「やっぱちょっと袖が短いから、おまえのだ。」 「てことは俺、足も短いのかな。」 「俺の腕が普通より長いだけ。」 「足も長いよ。」涼矢の立ち姿を見ながら和樹が言う。「本当にモデルのバイトでもしたらいいのに。痩せたからちょうどいいんじゃない? ああいう仕事の人って普通より痩せてるだろ。」 「嫌だね。」涼矢は最後に上着を着て、和樹に見せた。「はい、着ましたよ。」 「懐かし。」和樹は涼矢の上着の胸にあるエンブレムに触れた。「1年経ってないのに、すごく前のことみたい。」和樹の言葉は、つまり2人がつきあいだして1年にも満たないことも示していた。  エンブレムを撫でていた和樹の手は、やがて襟元に差し入れられ、内側から上着を脱がせていった。両腕をダラリと下げた涼矢の足元に上着が落ちる。 「せっかく着たのに。」と涼矢は言うものの、拾おうともしない。あの日、涼矢は脱いだ上着はきちんとハンガーに掛けたが、和樹はやっぱり雑に脱ぎ捨てていた。それを涼矢がせっかく拾ってやったのに、また落とす羽目になった。和樹に抱きすくめられたせいだ。そのことを和樹が覚えているかどうかは知らない。だが、涼矢は覚えている。そんな風にしたら皺になるじゃないか。あの時はそう思ったけれど、今はもう思わない。こんなことでもなければ着る機会はないだろう。今更リサイクルとやらにも出す気も起きない。皺になったところで誰も困らない。それでもクリーニングに出しておいたのは、和樹とのささやかな思い出の品のようにも思えたからだ。あの頃はまだ、遠距離になった和樹と関わり続けられる自信がなかった。でも、もう、そんな思い出の品なんて要らない。  和樹は涼矢のネクタイを緩め、ワイシャツの一番上のボタンを外した。そこで手を止める。「これも脱げよ。それとも、脱がせてやろっか?」  涼矢はにっこりと笑って、顎を上げ、ネクタイの結び目を和樹につきだすようにした。「脱がせて。」 「あ、なんかムカつく。」和樹はそんなことを言いながらネクタイを解いた。ボタンも外し始める。「余裕な顔しやがって。あの時は泣きそうになってたくせに。」 「うん、泣きそうだったもの。」涼矢はただ直立不動で、和樹にされるがままだ。「当たり前だろ。ずっと好きだったんだから。」そこでようやく、和樹の頬から顎にかけてのラインをなぞるように手を触れた。「ずっと好きで。死ぬほど好きで。その人にキスされて、触られて、平気なわけないだろ。」 「もう慣れちゃったな。」和樹は涼矢のワイシャツの前をはだけさせると、腰を屈めて、涼矢の乳首に舌を這わせた。和樹の頬にあった涼矢の手は、置きどころがなくなり、宙に浮く。その指先が時折ピンと伸びる。 「慣れるかよ。」上ずる声で涼矢が言う。和樹は涼矢の腰骨を支えるように抱いたかと思うと、涼矢の足元にかしずいた。ベルトを外し、ズボンを少しおろし、その中の下着もずらした。そうして、既に屹立しつつあった涼矢のペニスを口に含んだ。涼矢がハッ、と短く息を吐く。  涼矢のペニスが勃起すると、和樹はいったん口を離して、涼矢を見上げた。「俺も人のチンコなんか舐めるの、初めてだったけど、慣れたよ。」 「うっせえよ。」 「黙ってやれってか。ひでえの。」和樹は再びペニスを舐める。  確かにひどいな、と涼矢は心の内で思う。あの時の自分なら、和樹にそんなことをさせるのが申し訳なくて、恥ずかしくて、でも初めての口淫の快感も捨てがたくて、どうしていいか分からないほどだった。それが、今では。そう思いながら、和樹の頭をつかむようにして、自分の股間に押し付けた。和樹は一瞬えずくような声を出したが、そう強く押し付けたわけではないから、すぐに咽喉奥まで使っての口淫に順応した。強く吸う音。こすれあう水音。呻くような涼矢の喘ぎ。部屋に響く音はどれも淫らだった。

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