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第424話 brand new day(10)

「30日に決まったみたいだな。」と和樹は言った。 ――ああ。 「誰が来るの? メッセージのグループはやけに大勢いたみたいだけど。」 ――知らね。集合時間に集まった奴でどっか行くって。 「なんかさ、奏多の名前もあったんだけど。クラス違うだろ、あいつ。」 ――ああ、ほかのクラスも何人か声かけたみたいなこと言ってた。 「余計なことして。」 ――柳瀬はそういう奴だから。 「ま、しゃあないか。こっちが頼んだんだし。」 ――2人で行くと思うから抵抗あるんだろ。気になるなら、和樹だけ行ってもいいよ。 「はあ? 何言ってんだよ。」 ――だってこれ、和樹の帰省を祝う会だろ。おまえは行かないわけにはいかないけど、俺は別に。 「違うだろ、俺の帰省を口実に遊びたい奴が遊ぶ会。」 ――俺、別にみんなとは遊びたくないし。 「涼矢くん、ここに来てそれはないでしょうよ。俺1人でどうしろっつうの。」 ――おまえは何とでもするだろ。 「涼矢が行かないなら行かない。」 ――何こどもみたいなこと言ってんの。 「おまえだろう? 1人で行けとかさぁ。」 ――だって、奏多が来るのが嫌とか、気にしてるのはそっちだろ。俺はバレようがなんだろうが、もういいって言ってるだろ。 「それはちょっと言っただけで、そこまで気にしてるわけじゃないよ。いいからおまえも来いよ。」 ――明日は? 「え?」 ――みんなと会うのは30日だろ。明日とか、明後日とかは、どうすんの。 「どうすんの、って特には。」 ――ふうん。 「どっか行く?」 ――俺が今聞かなきゃ、会うつもりなかった?  和樹は一瞬言葉を詰まらせた。「そんなことないけど。みんなといつ集まるか決まってから、とか、あと、今日親父が帰ってくるの遅くて、あんまり家族とも話してないし、家の予定も分かんないから。そういうの分かってから決めればいいかなって。」正直ではあるが、言い訳でしかないことを連ねた。 ――俺のほうにも都合があるとは思わないんだ? 「あ、なんか予定入ってるの?」 ――入ってるかどうかじゃなくてさ、自分にもそういう都合があるなら、俺にだってあるだろうって想像はしないのか、っつってんだよ。毎年年末年始はハワイの別荘で過ごすかもしれないだろ。 「ハワイの別荘か。すげえな。」 ――ねえよ、んなもの。たとえばって話だよ。 「何が言いたいわけ?」 ――別に。じゃ、30日にな。俺もちゃんと行くから。  涼矢は今にも電話を切ろうとしている。 「ちょ、ちょっと待てったら。」 ――何? 用件は済んだろ。 「なんでそんな怒ってんの。」 ――怒ってない。 「怒ってるじゃないか、明らかに。あからさまに。」 ――怒ってねえし。 「俺がおまえに都合聞いてデートの予定とかちゃんと立てないから?」 ――そんっ……なんじゃ、ねえよ。 「やっぱそれだろ。でもさ、俺だって帰ってきたばっかで。」 ――みんなと会うのはいつでもいいって言ってた。 「だってそれはさ、人数が多けりゃ都合合わせるのも大変だと思ったし、日にち限定したら柳瀬だって仕切るの大変だろ。だからまずはそれ決まってから、他のこと、もちろんおまえと会うのだって決めようって思ってて。」 ――そう思ってたのは、おまえ1人だよな? 「はあ?」 ――俺への相談みたいなの、全然なかったじゃない? それぜんぶ、おまえ1人で決めたことだろ? 「都合悪い日があるなら言えよ。」 ――だから、そうじゃなくて!  涼矢はいよいよ苛立ちを隠さなくなってきた。 「そうじゃないなら何なんだよ。」 ――おまえ、そういうとこは、ほんっとに学習しないよな? 「言いたいことあるならはっきり言えよ、面倒くせえな。おまえだって学習してねえじゃん、そういうとこ。」 ――だから。 「だからぁ?」和樹はわざとため息交じりに、嫌味な言い方をする。 ――だから、俺が東京行った時は、ちゃんとおまえの予定聞いて、それに合わせただろ。俺のほうに行きたいところがあったら、おまえにも先にそう言っただろ。あのさ、川島さんだって、別にイブに講習入れたのを怒ってたんじゃないんだよ。そういうとこだろ、おまえの。 「おまえ、綾乃のこと嫌いじゃなかったのかよ。」 ――今それ関係ねえだろ。 「関係ねえんだったら元カノの話とか出すなよ。」 ――したくねえよ、俺だって。大体、おまえがいまだに綾乃呼ばわりしてんのもムカつくんだよ。別れた女のこといつまでも下の名前で呼ぶなよ。 「おまえだってエミリって呼ぶじゃねえかよ。」 ――別れた女じゃねえだろ。それにあれは部活の呼び名で、おまえだって奏多だってエミリだろ。今更俺だけ堀田さんなんて呼ぶほうがおかしいだろ。 「綾乃は綾乃って呼び名なんだよ。おまえこそ俺が涼矢って呼ぶ前から綾乃にろう、りょうやって呼ばれてたし。」  勢いに任せて一気にしゃべろうとしたものだから、最後のほうは早口言葉のようになって呂律が回らなくなってしまう。 ――知らねえよ、あの女にそんな風に呼べなんて頼んでねえし、呼ばれるたびにムカついてたよ。けど、おまえが好きな子だと思うから我慢してただけ。

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