明叔父のことは詳しくは知らない。何回か顔を合わせたことはある。特別変わり者の印象はないのだけれど、恵はいつも彼のことを「自由人」とか「勝手気まま」とか「いい年して結婚もせずフラフラしている」と表現する。だが、仲が悪いわけでも嫌っているわけでもないらしい。 　和樹はそのまま宏樹の部屋に行き、布団を敷いてから、自分の部屋に戻った。 「うち泊まるって佐江子さんに言った？」 「うん。」 「何も言われなかった？」 「ああ。つか、メッセージ送っただけ。既読になってるから、いいってことだろ。」 「ふーん。」和樹は入浴の準備をしようと下着を出して、ふとその手を止めた。「風呂入ったらパンツ穿き替えたい、よな？」 「ノーパンでいろと言われればそうする。」 　和樹は涼矢を一瞥して、引き出しをしばらく探してみたが新品はなかった。それから宏樹の部屋に行き、勝手に引き出しを開けた。宏樹はトランクス派のようだ。やはり新品はない。今度は恵のところに行く。 「あいつ、着替え持ってきてないんだけど、新品の下着なんてある？」 「えっ、下着？」恵は一瞬眉をひそめるが、不快なのではなく、その有無を思い出そうとしているせいだったようだ。「お父さんのはこの間私が買ったからあるはずだけど、それでいい？」 「親父のかあ。」とは言え背に腹は代えられない。「じゃあ、いいよ、それで。」 　恵は隆志の下着をしまっている引き出しから未開封の袋を出した。３枚１組の安物のトランクス。そこから１枚取り出す。「これでいい？　パジャマはある？」 「うん、パジャマは俺の貸す。」 「そう。じゃ、これね。返さなくていいからねって言っておいて。」と笑いながらパンツを渡す恵。 「もらっても困るだろうけど、返されてもな。」和樹も笑う。あいつボクサーパンツ派だし、まで言いそうになったが踏みとどまった。水泳部仲間だから知っていてもおかしくはないのだけれど。 　和樹は部屋に戻ると、そのトランクスを涼矢に渡した。「親父のだけど、新品だから安心してください。」 「あ、サンキュ。わざわざごめん。」 「洗って返したりすんなよ。」 「返さなくていいの？」 「人に貸したパンツは要らねえだろ、親父だって。まぁ、おまえ穿かないかもしれないけどな、トランクス。」 「トランクスは……中学生以来かな。ブリーフ、トランクス、ボクサー。俺のパンツ歴。」 「同じく。」和樹は笑う。 「これで親子二代のパンツをゲット。」 「気色悪いこと言ってないで風呂行ってこい。」 「はいよ。」 　そうして順に入浴を済ませた頃には、時間も遅くなっていた。恵が一度和樹の部屋に来て、隆志も宏樹も何の連絡もしてこないとひとしきり愚痴ってから「私はもう休むから、あなたたちも適当に寝なさい。」と言った。 　それをきっかけにして、和樹と涼矢は宏樹の部屋に移動した。和樹は当然のようにタオルケットを手にしていた。 　涼矢を先に行かせ、和樹が部屋の内鍵を閉めた。前回はそれで散々羞恥心を煽られたことは忘れようにも忘れられない。手の自由を奪われたまま、そのドアに向けて開脚させられ、背面座位で突き上げられ、声を出したら家族に気付かれると耳元で囁かれた。とどめに「鍵を掛け忘れたかも」などと言われたのだ。実際は掛かっていたのに、それを承知で、わざと和樹を煽るために。こんな簡単な作りのチャチな鍵ひとつに、随分とひどい目に遭わされたもんだ、と和樹はそのカンヌキ型の鍵をじっと見つめた。 「可愛い、それ。」涼矢は早速布団の上に胡坐をかいていて、立っている和樹を見上げていた。 「何が。」 「パジャマ。」赤系統のチェック柄のパジャマだった。 「ああ、これね。結構前に母親が買ってきたやつ。滅多に着ない。ガキっぽいしさ、スウェットとかＴシャツのほうが楽だから。それで東京にも持って行かなかった。」 「お父さんのパンツも赤のチェック。お母さん、赤のチェックが好きなのかな。」涼矢はスウェットのウェストゴムを伸ばして、覗き込んだ。 「よくあるだろ、そんな柄。」 「ん、可愛いよ。似合ってる。」 「そんなことは聞いてない。」和樹は涼矢をどかして、布団にタオルケットをシーツ状に掛けた。本来のシーツは脇に置く。明日の朝には入れ替えてアリバイ工作をしなければならないだろう。 「ゴムは？」と涼矢が言う。 「あるよ。」パジャマのポケットからいくつかのコンドームを出して枕元に置いた。 「何個持ってきてんだよ。」 「箱に入ってたやつ、適当に掴んできたんだよ。」 「ヤル気満々ですこと。和樹さんたら、はしたない。」わざとらしくそう言って涼矢は笑う。 　和樹は向き合った姿勢のまま身を乗り出して、涼矢に抱きついた。「だめ？　はしたない俺は嫌い？」 「大歓迎。」涼矢が和樹に口づける。そのまま頬から耳と、耳の下を経て、首筋へと舌を這わせる。んっ、と、控えめな喘ぎが和樹から零れはじめる。 「ね、でも、まだ、おふくろ、起きてるかもしんない、から。」パジャマのボタンが２つばかり外され、露わになった鎖骨への口づけを受けながら、和樹が言う。 「ここでお預けって、ありえないだろ。」