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第439話 a pair of earrings (6)

「俺さ。」涼矢の髪の毛をさかんに指先で梳くようにしながら、和樹が言った。 「ん?」 「自分は、性欲、そんなに強くないほうだと思ってた。」  涼矢が吹き出した。 「馬鹿、笑うな。」そう言いながらも、自分でも笑う和樹だ。「そりゃね、東京来る前とか、おまえとやたらヤッてたし、その前だって元カノ相手にサカってた時期もあるよ。でも、それって、ちょっと特別っていうかね。普段はそうでもないんだよ。相手がいなきゃいないで、なんとかなって。1人でシコるのも、そんなに多くないと思う。高校ん時、友達とそんな話題になってもさ、見栄張って多く言ってたもん。おまえみたいに、1日1回でも足りないなんてことは全然なくて。」 「俺だって普段はそこまでじゃない。たまたま、あの話をした頃、そういう気分の日が多かったってだけ。」 「雪山で遭難でもしてたか。」そうして死にかけた時には、本能として性欲が強くなる。以前、そんな話をした。 「そうだよ、きっと。」涼矢は適当な返事をする。 「だったら俺もそうなんだ。……あ、これダジャレになってるな。雪山で遭難だ。そうなんだ。」アクセントを変えつつ、和樹はそんなことを言った。 「くだらね。」涼矢は小さく笑う。 「だからさ、おまえがいる時だけなの、そんなことばっかり考えるのは。」 「俺といるとダジャレばかり考えてんのか。」 「んなわけねえだろ。」和樹は指先で涼矢の額を軽く弾く。 「だから、そうやってすぐ暴力行為に及ぶの、やめろ。」 「軽くデコピンしただけで、大袈裟な。」 「加害者は、すぐそうやって自分のしたことを過小評価するんだ。」 「万が一、俺が加害者になることがあったら、弁護してくれよな。まぁ、まずないとは思うけどさ。」 「俺のハートを盗ん」言いかけた涼矢にかぶせて、「そういうのいいから。」と黙らせる和樹だった。  そうこうしているうちに、再び玄関から物音が聞こえた。消去法で、宏樹だろう。もう日付も変わって2時間近くが過ぎている深夜だ。なるべく物音を立てないように気遣っているのか、隆志の帰宅の時より控えめな音しかしない。それでも耳を澄ませばどこを歩いているかは分かる。宏樹はまっすぐ和樹の部屋へと行ったようだ。  ふう、と二人同時に息を吐く。「これでもう待機しなくていいな?」と涼矢が言った。 「まだだ。今はまだ着替えでもしてるだけで、歯磨きとか、トイレとかで出て来るかも。」 「そんなこと言ってたら朝になっちゃうよ。」 「あと10分。いや5分待て。」  涼矢が不満の声を上げようとすると、果たして、ガチャリ、という音がした。しばらくして、洗面所から水の流れてくる音がかすかに聞こえてきた。歯磨きらしい。和樹は、ほら見ろと言いたげに涼矢を見た。 「さすが弟だな。」 「ヒロは昔からそうなんだ。朝晩の歯磨き、サボらない。」 「歯磨き、サボらない。」涼矢はその言葉が妙におかしくて、声には出さずにひとしきり笑った。  歯磨きを終えた宏樹が再び和樹の部屋に戻った気配がした。和樹はドアの向こうが見えるわけでもないのに、しばしの間ドアを見つめ、それから涼矢を見た。顔を近づけ、口づける。「お待たせ。」 「もう、オッケー?」 「うん。でも、あんまりその。」 「はいはい。ソフトにね。」そう言いつつ、いきなり和樹のパジャマのズボンの中に手を突っ込む。「でも、それって俺じゃなくて、和樹の問題だよねえ?」 「はあ? ……つか、おまえ、いきなり、何すっ。」 「おまえがすぐ感じちゃったり、すぐ声出しちゃったり、それ、俺のせいなの? エロいことばかり考えるのも、ぜーんぶ、俺のせいなの?」 「そ、そうだろ。」 「そうかな。」涼矢は掛け布団を剥がし、するすると後退したかと思うと、さっき穿かせてやった和樹のズボンとパンツを再び取り去った。それから、うつむくと落ちてくる髪を耳にかけると、そのままその手を耳元に残したまま、もう片方の手で和樹のペニスの根元を押さえた。 「なんっ。」 「フェラ。」それだけ言うと、まだ柔らかい和樹のペニスを口に入れた。 「わ、ちょっ。」和樹は腰を引くが、布団の上のことで、大して移動できるわけではない。しかも、ペニスは涼矢にしっかり押さえられている。  涼矢は和樹の戸惑いなど意に介さず、亀頭を舐め始めた。少し硬くなると、すかさず根元にあった手が移動して竿を握り、さすりだす。和樹はゴクリと生唾を飲むと、あとは涼矢から与えられる淫らな刺激にただ身を委ねた。自分が気を使うのは、大きな声を出さないようにすることだけ。手の甲を口にぎゅっと押し付けて、下半身から這い上がってくる容赦ない快感に耐えようとする。 「あ……はぁ……んっ……。」それでも時折声が漏れる。 「ひもひいい?」謎の言葉を発したのは涼矢だ。わずかに語尾上がりなことから、「気持ちいい?」と聞かれているのだろうと推測した。 「ん。気持ちいい。」  涼矢は、口の中のペニスを一度出し、今度は横から舌を出して舐め始めた。ぴちゃぴちゃ、と音がする。上目遣いで和樹を見た。「硬くなってきた。」と嬉しそうに言う。「でも、もっとね。そしたら、これで口ん中、ゴリゴリしていい?」 「エロいことを……。」独り言なのか、涼矢に聞かせたいのか分からないほどの小声で和樹が呟く。 「いい?」これははっきりと和樹に向かって言っている。 「……好きに使え。」和樹はそう言うと、はあ、と、ため息のように喘いだ。

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