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プロローグ 3

Side:高目 拓馬 「金ならいくらでも出す」 面倒なのでそう言うと、その青年は目を大きく見開き、その後俯いた。 『お金』と聞いて覚悟を決めたようで、ななめがけ鞄の紐を震えた手で持っている。 ……こんな弱弱しい奴で大丈夫だろうか。 色素の薄い茶色の髪、安っぽいパーカー、チャラチャラしたピアス。 バイト感覚でこの仕事をしているような、経験も無い学生風の青年だ。 場数を踏んでいて、見目麗しくて、後腐れのない相手としてこの会社を選んだが、場合によっては№1の吾妻にやはり変えて貰わないといけない。 「着いた。降りろ」 「え、あの、ここって」 「俺のマンションだ。話は中でいいか?」 もう一度青年は小さく頷く。 伏せられた睫毛が、女みたいに長くて……なんだか仕事を依頼するのが申し訳なくなってしまった。  色々と面倒くさいことに巻き込むのだから、高級デートクラブの社長に仕事として頼んだんだ。向こうも権力者を何人も抱え込んでいるやり手の社長だからだ。 そもそも、朝かかってきた一本の電話でこんな面倒なことになったんだ。 『やばいよ、母さんの父親、俺らには祖父ってことか。そいつ危篤らしい。意識不明の重体でいつぽっくりいくか分からないって』 弟の間抜けな電話で起こされた俺は、冷蔵庫から牛乳を取り出しそのままコップも出さずに飲んでいた。 母親の父親は、……たしか佐渡組組長で九州地方の極道。 母をこの仕事で金稼ぎさせようとして、逆に母から逃げられ親子の縁は切れていたらしいが……。 『俺のとこに弁護士が来てさ、ゲイのAV男優してる俺には、なんか遺産の放棄とかして欲しいらしくて手続きされたんだよねー』 「では俺も、放棄だろうな」 父親の会社を継いだ今、祖父も近づいてこないだろう。 『いやいや、やべえよ。佐渡の血を継ぐの母さんだけなんだよ? 弟の俺は放棄させられたし。兄ちゃんに後継者の話がくるんじゃね?』 「まさか」 鼻で笑い飛ばし、スーツに腕を通そうとした時だった。 チャイムが鳴ったのは――。

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