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イチ。偽装恋愛⑥

一触即発。 そんな火花が飛び交う二人に、俺と吾妻はお互いを抱きしめあいながら震えていた。 が、夏目さんが小さく舌打ちすると吾妻から俺を引き離した。 「こんな馬鹿、危なっかしくてデートクラブで働けるわけねえだろ。俺の恋人役の方がまだ楽だ。ノーマルだからな」 「ノーマル? あんたの弟、ゲイ男優じゃん。あんたも素質あるに決まってるだろ」 「その弟に100万貢がせてヤらせなかったお前はなんだ」 ゲイ男優? 100万? ヤらせてない? 初めて聞く単語に、クエスチョンマークが頭の中を駆け巡った。 「あいつ喋ったのか。俺はお金大好きだからいいの! 俺が養うから聖を離せ」 どんどん色んな情報が飛び交う会話に、俺は魂が抜けるような、ポカンと抜けがら状態で話を聞いていたが我に帰って夏目さんを見る。 「俺、……俺じゃあ夏目さんの恋人役なんて無理じゃっ」 「この№1よりは初々しくてあってると思うぞ」 「……さっきも暴走して迷惑かけたのに」 「お前は危なっかしいが、腹黒よりマシだ」 「それ、俺のことじゃないよな?」 吾妻がムッとしていたけれど、夏目さんはおれを見下ろし睨みつけていた。 俺の覚悟を試している。 此処まで俺の為に言ってくれているんだから、俺も答えなきゃいけない。 「俺も。甘ったれだから夏目さんに色々厳しく指導してもらいたい」 「聖……」 「吾妻に迷惑かけたくないし、夏目さんなら迷惑かけても胸痛まないしね」 「上等じゃねーか。生意気に」 掴んでいた首の服を離すと、携帯で誰かに指示を出し出した。 「そっちの会社には紹介料だけ払ってやるよ」 「……まぁうちの看板の吾妻を一か月拘束されるよりは此方で妥協しときましょか」 なんとか話し合いは終わったようだ。にらみ合っていた二人からピリピリした空気は消えた。 が、吾妻は抱きしめていた俺を放り出すと、社長に食ってかかっていた。 「社長! 約束が違う!俺の目の届かないところで聖が仕事するなんて」 「せやかてその子、うちの社員やないし。あとはその子と夏目の契約しだいよ」 「そんなっ くそ」 吾妻はいつも感情を出さないでのらりくらりと上手く甘えて乗り切るタイプだから、俺の前以外でこんなに感情を出すのは初めて見た。 「あの、吾妻、この人そんなに悪い人じゃないよ?」 おずおずと助言すると、吾妻にキッと睨めれてしまった。 「お前は一度騙されてるんだから簡単に人を信用するな。お前みたいな可愛い奴は危ないに決まってるだろ」 「か、かわいい。俺が?」 可愛いってより甘ったれ、根性無しって言われたら納得できるのだが、可愛い……。 違和感があるな。 「いいか、もし聖に何かしたり傷負わせたら、お前の弟をとことん追い詰めてやるからな。あいつ、俺に惚れてるんだろ。――あいつを人質にしてやる」

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