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イチ。偽装恋愛⑧

「さあて、そろそろ太客と仕事だし帰らなきゃ」 「吾妻!」  紙袋いっぱいに玩具を持った吾妻が、満足そうに玄関へ向かう。  社長さんの方は段ボール二箱を軽々と持っている。 「大丈夫。ノーマルなんだろ? それに俺も何かされたら本気で弟をボロ雑巾のように扱ってやるしな」 「では、頑張ってください、お二人さん」 二人はお互いの紙袋の中身をきゃっきゃっと見せ合いながら、ほくほくした顔で帰って行った。 パタンと閉めた扉の前に固まる俺に、にやりと夏目さんが笑う。 「お前、童貞か」 「ひっ ば、馬鹿じゃん。童貞とかじゃないし」 「ふうん。こんなアダルトグッズで真っ赤になってるのにか」  真っ黒い棒を俺の頬に押し付けようとしてきたので拳で打ち返した。  一歩間違えれば、これはセクハラだぞ。 「う、うるさいしっ 下品なモノを見て驚いただけだ。近づけんなし!」 ゴムでさえ使ったことも無いのに、なんでこんな部屋に溢れかえるようにあるんだ。 びっくりしてちょっと泣きそうだ。 「さて、隣の部屋も使ってねえからお前にやるよ。たまに弟が帰ってくるからそんときはソファで寝ろ」 「え、俺此処に住んでいいの?」 あっさりと夏目さんは言うけれど、俺みたいな生意気な奴を本当に家に入れてくれる気なんだ。 「当たり前だろうが。だが勘違いしてんじゃねえ。俺は俺を守るためにお前を家に連れてきてるんだ。後継者リストから外れたら俺の目的はお終い。お前も出て行ってもらうぞ」 「もちろん。俺もそれまでバイトとか探すよ。……男も苦手じゃなくなるように努力してみる」 「バイトなら、俺が紹介してやってもいいぞ」 「え、本当!?」 「アダルトグッズのモニターなんだが」 「自分で探すからいい!」 これ以上、そっちの話には俺は乗らない。 断固たる意思を持って俺は意気込んだ。 「ちなみに服も弟のがあるから好きに着ていい。向こうの部屋は俺は入らねえが自由に使え」 「夏目さん、ありがとう!」 色々問題点はあるけれど、この人は俺の救世主だ。 そう思ってるんるんと部屋に入った俺は、膝から崩れ落ちた。 ベッドサイドに並べられたバイブにローター。 本棚には妖しいAVDVDがぎゅうぎゅう。 ビキニやハイレグパンツが窓辺に干されてるが、あれは男物? 余りにも知らない世界で、俺は死んだ。小さな冷蔵庫もあったので、何となく開けてみれば、冷やしているローションでぎゅうぎゅうだった。 ローションって冷やして使うのか?  俺の浅い知識の中で探してみても答えは見つからず、経験値は上がらなかった。

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