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ニー。同棲生活①

Side:夏目 拓馬 俺の母親は俺が生まれる前にはもう壊れてしまっていた。 父親が違う弟を産むざる負えない状況に追い詰められ、精神的に壊れてしまったらしい。 父親は、無垢な少女のようになってしまった母とさっさと隠居したかったらしい。 俺が会社を継げそうだと判断したら、さっさと家を買って二人で暮らしている。 母親が壊れてしまった原因を、俺は父にも教えてもらえず知る方法がなかった。 だが、一度だけ中学生ぐらいのときだったろうか。 母親の出ているAVをからかわれ、俺でさえ知らなかった事実に、ついカッとなって相手をボコボコにした日。 父が、庭で蝶を追いかける母親を眺めながら、真実を教えてくれた。 母親が九州にある所謂ヤクザの組長の一人娘で、親の後継者争いに巻き込まれ脅されて、誘拐されたこと。 とっくに縁を切っていたが、脅せるものなら何でも良かったのだろう。 父は、油断していた俺も悪かったと言っている。 取り返したときにはすでに、心が壊れてしまっていた。父もその後、AVのことを知ったという。 そんな事情を知っている俺達が、九州の田舎の後継者云々に興味が沸くはずもなく、塩の塊で殴り倒したいほど面倒だと感じていたのだが……。 起きてすぐ、小鳥の囀りさえ聞こえてこないタワー型マンション最上階で、俺は信じられない状況だった。 俺の隣に、丸まって小さくなって眠る聖の姿があったのだ。 (こいつ……男が怖いって言ってたじゃねーか) なんで俺のベッドに潜り込んでんだよ。 「おい、この馬鹿。起きろ」 「うーん。あと3時間」 「起きる気がねえじゃねえか」 パチンと頭を叩き起こすと、眠たそうなとろんとした目をごしごしと擦る。 「うー。おはよう」 「おはようじゃねえ。お前、なんで此処に居るんだ」 布団を剥がすと、速攻で奪われ、顔だけ出すミノムシのように包まりやがった。 本気で起きる気がねえ。 「……俺、居候だし部屋なんて貰うのおこがましいし。あんな怖い部屋落ちついて眠れねえもん。アラームかと思ったらローターのバイブだったんだぜ!」 「ベッドサイドの玩具は触らん方がいいぞ。使用済みかもしれん」 「ぎゃー。俺、夏目さんのベッドでいい。男克服するのは、男の中の男みたいな夏目さんから離れたら……ぐー」 寝やがった。 ベッドに潜り込んで悪びれもせずに、しかも言いかけて眠りやがった。 こいつ、危機管理能力がねえ。 無防備と言うか、警戒心って言葉を知らねえんじゃねえか? 懐いたら、無条件で信頼してしまうんだろうか。 こいつを襲った姉の婚約者ってやつも、こんな無防備な姿で甘えられたんだろうか。 「っち。居候だろ。珈琲ぐらい入れろ、ほら」 布団を奪って床に転がすと、眠たそうな顔でベッドに這いあがってきた。 「あと3時間って、ぎゃあああああ!」 「うるせーな。んだよ」 「裸で寝てる!」 真っ青になって口をあわあわ動かしているが、どうやら俺が裸で眠っているので自分の身を危惧したのか服を着ているのを確認している。 「ふざけんな。勝手に潜り込んできといて何を疑ってんだ」 「やー、だって俺昨日誘ったしって、ぎゃー!!」 「次は何だ。うっとおしい」 両手で目を隠しつつ、隙間を作って俺を見た。

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