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ニー。同棲生活③

Side:氷田 聖 珈琲の粉が入ったボトルを見つけたが、どうやって珈琲を入れていいのか分からなかった。 多分、チョコレートはレンジでチンすれば溶けるはず。この粉も熱で溶けるかも? ついでに朝食を作ってあげたいと思って電子レンジを見たら、オーブン機能もついていた。つまり同時にレンジとオーブンを使えるんだろうって理解して、珈琲豆の入った皿と、生卵をお皿に淹れて、レンジとオーブンのスイッチを両方押した。 俺は仁王立ちで、睨んでいる夏目さんの前で正座しながら嘘偽りなくそう答えた。 「は? 同時に押したから同時に使えるって思った? この馬鹿野郎が!」 濡れた前髪を掻き上げながら、嘆息される。 「ごめんなさいっ」 結果、焦げた珈琲粉がお皿に真っ黒になってこびりつき、電子レンジ内は卵の爆発で壊滅状態。 びっくりしてひっくり返った俺は、テーブルクロスを引っ張り、上に置いてあった食材や皿を叩き落としてしまった。 「今後、飲みモノ以外の食材を使いたいときは俺に許可を貰え。それまで触るな。いいな!」 「う、はい!」 めちゃくちゃになったキッチンを見て、夏目さんの顔は怖かった。 たったの10分やそこらで俺もここまで大失敗するとは思わなかったから、本当に申し訳なかった。 「で。怪我は無かったか?」 「え?」 「怪我だよ。生卵の爆発は大けがする場合もあるんだ。てめえはもっと勉強してそれぐらい学べ。いいな?」 「……はい!」 「手を見せてみろ」 腕を攫われて、袖をめくられ、丁寧に傷がないか探してくれている。 この人、口は悪いけどほんと豆で気も配れるし、俺とは比べ物にならないぐらい大人だよな。 「夏目さんって、お父さんみたい」 「てめえ。10歳しか離れてない俺にそんな事を言うか。ガキ」 少し怒ったけれど、不意に真面目な顔になって俺を覗きこむ。 「父親になるつもりはねえ。普段から俺を恋人だと思ってろ」 「夏目さんを恋人……」 「それが契約なんだから当たり前だろ?」 そう言われ俺も素直に頷いた。 「こんなんじゃ飯も食えねえから食べに出かけるが、お前大学は?」 休学して学費を稼ぐか悩んでいたのでまだ休学届は出していない。 だから大学には行かなくちゃいけないのは分かってるけれど。 「昼からだけど、俺、金ないから電車のれなくて歩いていく予定だから午前中には向かいたい」 「そうか。じゃあ俺が大学まで送迎するからドライブデートだな」 「え、でも片付けは?」 「家政婦気取りの奴にやらせる」 「でも、あの!」 「お前、ごちゃごちゃうるせえな。依頼主の言うことは、王様よりも絶対だ」 強引に腕を取られ立たされると、腰を引き寄せられた。 「……怖いか?」 強引なのに、ちゃんと俺の事を気遣ってくれるところとか。 俺、この人の怖い顔の癖に優しい部分、本当に好きかもしれない。 「夏目さんは俺の事ちゃんと知ってて、優しいから怖くない」 「……」 本音を言ったはずなのに、何故か夏目さんは俺の腰を離した。 「夏目さん?」 「お前、もうちょっと嘘でもいいから武装しろ。他人はそんなに信用していいものじゃねえぞ」 車を取ってくる、とマンションのロータリーに取り残されてしまった。 夏目さんは変な人だ。 他人を信用するなっていうくせに、じゃあなんでデートクラブでバイトしようとするような俺を信用しちゃうんだろう。

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