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ニー。同棲生活④

でも、夏目さんが俺を信用してくれてるなら、俺も彼を信用したいな。 夏目さんは怖くないって分かったし、恋人役頑張らねば! 「おい、何一人でガッツポーズしてんだ。乗れ」 つっやつやの黒塗りの外国車が目の前に止まる。左ハンドルだ。運転しにくそうな左ハンドルだ。 そしてスーツにサングラス姿の夏目さんは、どこからどう見ても堅気の人ではなかった。 「すげー! 格好いい! 写メ撮ってもいい?」 「良いから早く乗れ、糞ガキ」 俺のテンションにうんざりしつつも、わざわざ降りて助手席のドアを開けてくれた。 「あ、ありがとう」 「このマンションから出たら、どこで調査員が見てるか分からねえ。一秒でも素を出すなよ」 「分かった」 そうか。扉を開けてくれたのは、もしかして誰か見てるかもしれないからってことか。 「お前、大学の奴らに俺とデートしてるの見られても平気なのか?」 「え、あ、そこまで考えてなかったけど、俺は偏見ないし。友達ゲイだけど別にどうも思わないし」  吾妻が初対面でカミングアウトしてきたからか、抵抗ない。 「お前は何も思わなそうだな、確かに」  多分褒められたのだろう。ありがとうって笑顔でお礼を言っておいた。 *** Side:夏目 拓馬 「すっげ。ひゃっほー!」 出発する直前で、『もしかしてこの一列に並んでるの夏目さんの車?』と俺の車を見るなり目の色を変えやがった。 親父のもあるが大体俺の趣味の車だったのだが、スポーツカーを見て目を輝かせてるので車を変えた。 車の知識は人並み以下だが、待っている間に一つ一つの車のディテールの違いに感動していたようだ。 だが、さっそく乗り込むと窓から身を乗り出す犬の様に、身を乗り出して危なっかしい。 「てめえ、車からコロンコロン落ちても拾いに行かねえからな」 「もー。夏目さんの意地悪!」 スポーツカーに乗ってご機嫌なのか運転中の俺の腕に自分の両腕を巻きつけてきた。 確かに恋人のふりは頼んだが、邪魔だ。 「で、どこに向かってるの?」 「あ? 俺は高い場所から見下ろして飯を食うのが好きなんだ。向こうのホテルが見えるだろ。あそこのランチは肉がうめえ」 「へー! お肉が」 「向こうの五階建ての最上階のステーキ屋も肉がうめえ」 「……まあお肉屋さんだもんね」 「で、接待で行く寒暫荘って和食屋も肉がうめえ」 「お肉が……って」 アハハと大声で聖は笑いだした。 「夏目さん、お肉の感想しか言わないし! 説明が大雑把だし!」 「うるせえな。本当に肉がうめえんだよ」 「お肉にかぶりつく夏目さんってすっげ想像できる!」 ゲラゲラと笑うこいつに、ふと信号で止まった時に顎を掴んでしまった。 ゲラゲラ五月蠅いなら、キスで舌でも入れてやれば大人しくなる。 それをこいつに実行しようとしていた自分に驚いた。 女しか興味がねえんじゃなかったのか、俺は。 「あ、はは? 夏目さん?」 不思議そうに固まる聖に、ハッと我に帰る。 男が怖いと言っていたこいつに、今そんな事をしてしまったら再び怖がるんじゃねのか。 自分の理解不能な言動に思わず首を傾げてしまった。 「今から行く店は、1g単位で肉の重さを選べる。お前は肉がついてねえから500は食べろ」 「えええ? 無理! 無理じゃん、それ!」 慌てる聖を尻目に、黙って車はホテルへと入って行く。

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