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ニー。同棲生活⑤

着いてからエレベーターに乗ってレストランに向かうまで、聖は常に緊張してカチンコチンに固まっているようだった。 そして窓辺の席で、メニューを見ながら緊張から震えている。 「え、っと、う、う、ウイリアム!」 「王子の名前かそれは。こっちミディアムで俺はレア」 「うわ、……値段怖くて見れない」 そわそわと落ちつかない聖の真正面で、俺は部下に調べさせたこいつの素性を、確認していた。 「何見てるんですか?」 俺がアイパッドを見ながら操作しているのに気付き首を傾げている。 「仕事だ。肉が来るまでには済む」 「ふうん」 父と母が蒸発してから姉に育てられていると記載されている。 姉の名前は、あかり。ふうん。聖が女になったらこんな感じかと思わせるような、似ているのだが奥ゆかしい女だ。 そして、これが聖を押し倒したという青二才野郎か。 人の事は言えない面だが、人の良さそうな爽やかな顔なのに目がじめっとしてて、裏がありそうな顔だ。 ……しかも、なんの因果か知らねえが、あのデートクラブの出入りもあるじゃねえか。 つくづくツイてねえというか、不幸体質と言うか。 あそこでバイトしてたら、再会していたかもしれねえ。 「うわ。ねーねー、厨房見て! 炎がすげーよ」 「フランペだ。お前、馬鹿がバレるか喋らない方がいいんじゃねえか?」 幼いと言うか、甘やかされて育ったと言うか、知らないことが多すぎる。 「じゃあ、色々と教えろよ、夏目さん」 にひひと反省の色も見せずに笑うと、場違いなピアスがじゃらじゃらと光った。 けれど無邪気なのに少年っぽいあどけさが残る聖には、似合うと思えた。 どこか危なっかしいところがそのピアスとバランスをとっている。 「教えてくださいと、言え」 「教えてくださいっ」 一度良い人だと思ったら、とことん信用してしまうような奴だ。 危なっかしくていつの間にか……目が離せなくなっていた。 「肉! 確かにうめえ!」 運ばれてきたステーキに、蕩ける顔を向ける危うい同居人に。 *** Side:氷田 聖 「どーゆうつもりだよ! 何考えてるんだ! 聖!」 登校した俺に吾妻が鬼の形相で駆けよってきた。 スポーツカーで大学内の駐車場まで何食わぬ顔で夏目さんが入っていくから、すごい注目の的だった。 「えっと、お金ないから送ってもらっただけだよ」 「あんなヤクザみたいな男のチャラチャラした車で大学に来るなんてお前俺みたいに噂が立つぞ」 「吾妻の噂って、金持ちマダムのパトロンがいるとか歌舞伎町ナンバー1ホストだとか、乱交パーティーで働いてる(?)とか信憑性が薄いのばっかじゃん」 本当はデートクラブの売り上げ一位の人気者なんだから、噂よりも真実の方がすごい。 「でも噂になって得なものじゃねえだろ」 はあ、と深く溜息を吐かれてしまった。 でも夏目さんの恋人役としてはこれぐらい目立つ方が良いんじゃないのかな。 「でも今は……吾妻以外の友達も近づかれたら吐きそうだし、遠巻きに見られたままでもいいよ、俺」 「聖……」 理工学部だからただでさえ男が多いことも自覚してる。

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