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ニー。同棲生活⑧
Side:氷田 聖
黒のベンツが俺を迎えに待っていた。
んで、最新の携帯が渡されてた。
これで携帯で電車に乗ることもできる。コンビニで昼ご飯も買えるわけだ。
なんか俺、金持ちのペットになったみたいに次から次へと色々と与えられ、どうしていいのか分からず固まっていた。
「私、顧問弁護士の花渡 司と申します」
迎えに来てくれたベンツの中に、怖い目をした眼鏡の美形が乗ってて固まった。
うわあ、男のくせに顔のパーツが一つ一つ丁寧で綺麗だ。でも表情がなくサイボーグみたいでちょっと怖い。
「どうしたんですか? さっさと乗ってください」
俺が固まっているのを不審がっていたので、俺は震える唇を懸命に動かした。
「お、れ、男の人がこ、わくて」
「……申し訳ありません。そうお聞きしていましたね」
相手も瞬時に思いだしたのか、冷たいピリリとした空気を和らげてくれたので俺はへらりと笑って誤魔化した。
「では、私は自分の両手をこのウチの社が出している手に痕が残らない手錠で拘束しますのでお車にお乗りください」
「え、あのそこまでしなくてもだ、大丈夫です」
と言いつつも知らない人と車の中でと思うと立ちつくしてしまった。
夏目さんの車に乗るのは平気だったけど、あの人は特別だ。雇い主だし、良い人だから。
今はキスしてきたから、その良い人の地位は保留にしたいけど。
でもこの人は、お人形みたいでちょっとだけ怖い。次の動きや言葉が全く予想できない。
冷たい雰囲気のぴりっとした美形の花渡さんは、怒る気配も無く俺に頭を下げると車から降りた。
「では社長と契約したことについて書類や貴方への保障の話でしたが、次から部下の女性に迎えに来させることにします。今日は社長に報告して今後のことを決めますので後日でよろしいでしょうか」
「あ、はい。もちろんです」
「では十分ほど待っていただけますか。部下に貴方を家まで送迎させます」
「え、あのすみません、花渡さんは?」
「電車で社に戻りますので心配ご無用。勿論交通費は経費です」
淡々と言うと、さっさと消えてしまった。
電車とか似合わない、気品あふれるオーラの人で圧倒されちゃったけど……とても失礼なことをしてしまって落ち込む。
大学でも友達に何があったのか言えなくて、吾妻が友達との間に入って距離を作ってくれたからなんとか今まで通り笑えている。けど本当は友達で冴え怖いんだ。
だから失礼だってわかっているのに、まだ少し身体や声が震えてしまう。
「此方、マンションのカードキーでございます」
「あ、ありがとうございます」
十分して女性の社員がやってきた。顧問副弁護士の花渡 式部さんと言うらしい。
長髪の切れ長の瞳の、長身モデルみたいな、綺麗な人だ。
「あんたも大変だね。なんかあれば、私呼んでいいから」
豪快で姉貴肌の女性で、雰囲気が花渡さんと一緒なのにギャップがすごい。
でもすぐに女性社員を手配してくれるなんて、やっぱ夏目さん、とっても優しい。
……キスなんてしてきたから、まだ用心しなきゃだけど。もしかして花渡さんが全部してくれたかもしれないし。
あの人のキスは悪意とか下心が無かったせいか怖くなかったんだよね。
マンションのオートロックを解除し、大きな部屋の中へ戻る。
すると、入ってすぐにシャワーの音が聞こえてきて固まった。
玄関を見ると、大きな靴が置かれている。
「……夏目さん?」
帰って来たのかな?
シャワーの音が鳴り終わるまで、夏目さんの部屋で待機した。
大きなキングサイズのベッドと、壁に埋め込まれている棚に香水や時計、そして箱買いした煙草が置かれている。
それ以外は何もなくて何だか落ちつかない。
というか、勝手に人の部屋の中を見るのはルール違反なきがしてきた。
シャワーの音が止んだので、急いでお風呂の方へ走る。
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