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ニー。同棲生活⑪
Side:氷田 聖
まだ手は震えていたけれど、それよりも別の事に俺は目が離せなかった。
この、独裁政治をしてそうな偉そうで怖そうな夏目さんが、丁寧に珈琲を挽いている。なんていう機械だろうか? 本格的な動きに思わず目が離せなかった。
なんでこの人、完璧なんだろう。珈琲豆の香ばしい香りがさらにイケメンを際立たせている。
悔しいが欠点がない。巨根は完璧すぎるゆえの欠点かな。
「あの、……弟さんも巨根だったな」
「ぶっ」
真剣な顔で珈琲を淹れていた夏目さんの顔が一気に崩れた。
「俺とあいつは母親似だったからだろ。だがあいつの親父はロクデナシ中のロクデナシだったせいで、後継者争いに最初から除外されてやんの。羨ましいことで」
「夏目さんは除外されないんだな」
「俺は金があるからだろうな。廃れて権力も失われつつある癖に金にがめつい」
「そうなんだ」
コトッと優しく置かれた珈琲と共に、もうその話はお終いだと雰囲気で分かった。
「良い考えがあるんだが」
「いい考え?」
「御手洗を社会的にボコボコにする。御手洗の爽やかを売りにしている顔をボコボコにする」
「な、何で名前知ってるの?」
名前を聞いた瞬間、心臓がギリギリと傷んだ。
情けないけど、恐怖で両手が震えている。
「身辺調査だ。お前だけじゃなくてお前の周りもな」
「そ、そう」
ヤクザの後継者になりたくないからゲイのふりをする癖に、ヤクザ並に怖い提案してきて何がしたいんだ。
と、言いたかったのに、歯がガチガチ震えている。
「で、返事は?」
「ど、どっちもしたくない」
「姉のためか?」
姉ちゃんの事までやっぱ調べてるのか。
「男らしくねぇぞ、聖」
見下ろしてくる夏目さんが何だかいつもより更に大きく見えた。
「提案その三、俺が始末する」
「笑えないから、それ」
「お前がそれでいいなら我慢してやるが、本当に姉が大切なら覚悟決めろよ」
ポンポンと頭を叩かれて、その優しくて温かい手に思わず泣きそうになった。
温かくて優しいのに泣きたくなるってどうかしてるんだ、俺。
「そ、そういえば弁護士の花渡さんも怖がったから電車で帰らせてしまったんだった」
「ぷっ あれは最高だったな。花渡みたいなエリートが電車にのるなんざ最高だ」
やっぱり乗らないんだ。
「あんな男の人なのに、冷たくて綺麗な人ってそうそう居ないよね。びっくしりた」
「……それはどうかな。単細胞な暇より面倒だぜ、あいつ」
そう笑いながらも、珈琲を一気飲みすると服の袖をまくりあげた。
「よし。気分を変えるか。お前、何が食べたいか?」
「えっとお昼あんなに豪勢に食べたから」
そんなにお腹空いてないし、なんかさっぱりとしたものでいいかな?
なんて思ってたけど、夏目さんは違った。
「分かった。肉だな」
選択権ないじゃん。
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