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ニー。同棲生活⑫

「夏目さん、料理するんだね」 まな板が年季が入っている。 きっと上手なんだろうな。 「おお。魚は捌けないが肉なら」 「どんだけ肉が好きなんだよ」 甘い匂いがして、どうやらすき焼きを作っているようだと気づく。 スーパーで買ってくる牛細切れじゃない。包みに入った牛肉が一キロも惜しげもなく鍋に投入されて喉が鳴った。  こんないい肉、今日の昼といい一体何年ぶりなんだろう。 「お前、すき焼きに大根入れるか?」 「え!? すき焼きに大根!?」 おでんみたいに輪切りに入ってるのだろうか? 「よし。美味えぞ、楽しみにしてな」 得げにニヤリと笑うと、夏目さんが大根を切っていく。 大きな人なのに、繊細に包丁を使うなあ。 どんどんこの人の事を知る度に、悪い場所が無くなっていく。 良い人なんだろうなって見た目以外から伝わってくる。 「……今日、一緒のベッドで眠ってもいい?」 「は?」 「夏目さん、指、指切りそう!」 俺の言葉に面食らったのか手先も美らずに大根を切っていく。 「……俺、あんな広い部屋で一人で寝たことないし……ダメならソファで寝てもいい?」 「ホームシックか、ガキ」 「ち、違うよ! 本当に、その……あの部屋、ちょっと怖いし」 返事がない。 数秒の沈黙さえ、心がちくちく痛んだ。 「嘘だよ。……冗談だし」 意味も無く冷蔵庫をパカパカ開けながら、力なくそう笑って言ってみた。 「おい、冷えが悪くなるだろ」 「けちくさい」 結局、返事を聞かずに曖昧に誤魔化してしまった。 夏目さんにはこの家に置いて貰ってるし、嫌われたくないっていうか、自分をよく見せようと思ってしまった。 「お前、左側だからな」 「左?」 「俺は右に豪快に寝返りを打つらしいから、朝起きてお前がぺちゃんこになってたら可哀相だからお前は左側で寝ろ」 砂糖をめいいっぱい計量スプーンに入れると、どんどん入れていき最終的には目分量で調味料をいれていく。 その顔は、料理に真剣な様子だけど、でもそれって……。 「良いってこと?」 「恋人役からの願いを叶えないわけにはいかないからな」 「でも……」 「あ?」  キスはするなよ、と言うとしてほしいと勘違いされそうだし、言葉を濁す。  言った方が意識されてしまうなら黙って置こうかな。 ぶっきらぼうな言い方だったけれど、なんだか嬉しくて心が擽ったい。 夏目さんが作ってくれたすき焼きは、ちょっとだけ甘みが強かった気がしたけれど美味しかった。 味が染みた大根なんて、生卵に絡めるとびっくりするぐらい美味しくて、いちいち大袈裟に驚く俺に、夏目さんは始終ご機嫌だった。 そんな夏目さんの視線の方が、すき焼きよりも甘い。 *** 「こら! お前、髪の毛乾かしてねえだろ」 「うわ、びっくりした」 ご飯を食べてだらだらした後にお風呂に入った。 続けて夏目さんが入ったのだけれど、ベッドでごろごろしていた俺の元にバスローブ姿で部屋に入ってくるなり、俺を睨みつけてくる。 「か、乾かしてない」 「廊下にポタポタ落ちてんだよ、ガキか」 「お湯が熱かったから早く廊下に出て涼みたかったんだよ!」 「言い訳はいいから、来い」 タオルを持った夏目さんに無理やり髪をガシガシ拭かれた。 「痛い! 禿げる!」 「禿げるか! 馬鹿じゃねえのか!」

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