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ニー。同棲生活⑭
たかが姉ちゃんの婚約者だ。
あんな出来事、半殺しにして、それで相殺にすればよかった。
俺には魔が差しただけで、姉ちゃんにはきっと誠実でイイ人かもしれないし。
「格好悪いが、俺は単細胞のお前がそこまで嫌いじゃねえよ」
否定しない。認めてもくれている。
荒い口調なのに、やっぱりこの人は優しいんだ。
「やっぱ心がざわざわするから一緒に寝たい」
「仕事が終わったら此処に戻ってきてやるよ。俺の可愛い恋人ちゃん」
額に柔らかい唇が押しつけられた。
冗談っぽく言った癖に、その唇が熱くて思わず胸が大きく高鳴った。
「そういや、あかり姉ちゃんさんが心配してたから言いわけ考えてな」
「言い訳?」
「ピアス。何故かお前のいつもしているピアスがベッドの下に転がってたってな」
「嘘」
慌てて耳を触る。
すると一番下の一番小さなピアス穴には何もつけていなかった。
家に帰れば何個かあるんだけど、……無くなったのは姉ちゃんが買ってくれた赤いルビーのピアスだ。
「どーせ就職活動始めたら外さなきゃいけねーんだから少しずつ止めて行けばいいじゃねーか」
「うーん、そうだよな。流石におっさんになるまでピアスできねえしな」
「俺の顔を見るな。あと俺はおっさんじゃねえ。次、老け顔だの親父臭いだの説教臭いだの言ったら押し倒すぞ、こら」
そこまでは全然思ってもないことだけど、意外と気にしてるのかと思うと思わず吹きだしてしまった。
「お前、俺の怖さを知らねえだろ。――そろそろ本当に現実を教えてやった方が良いか?」
にやりと笑った夏目さんは、何故かベッドの下の引き出しを開けた。
モノが無さすぎると思ったら、ベッドの下に収納スペースがあったのか。
だけれど、引き出しをあけて出てきたのは、夥しい数のAVだった。
「ぎゃーっ」
「どれがいいか? 俺の会社の製品使ったSM系や道具プレイ、コスプレ系、ああ、男性恐怖症を直すならゲイのやつか」
「み、見るわけねえだろ!」
「廊下の収納スペースには、弟、青桐暇主演のAVがいっぱいあるから邪魔だし見ていいぞ」
「見ないってば! 馬鹿じゃねーの! 馬鹿!」
枕をぶんぶん振りまわし、部屋から追いだした。
くっそう。こーゆうのを平気で薦めてくるなんて、なんて大人はいやらしいんだ!
俺は恋人ができたらこんなの見ないし!
恋人がいないからってこんなの見るの寂しいし!
吾妻となら笑いあって見れたかもしれないけど。
そもそも、姉ちゃんと二人で住んでた家は狭いし、壁も薄いし見たい気にもならなかった。
「……」
姉ちゃん。
電話してきたってことは、心配してるんだよな。
夏目さんは口がうまそうだから、上手く丸めこまれて安心してくれたらいいけど、でも。
――俺、いつまでこうして逃げれるんだろう。
そもそも逃げたままずっといられないだろうし。
どうしていいのか、分からなくなる。
不安になるけど、姉ちゃんの元に帰ってもあの人が怖いって気持ちが消えなかったら意味がない。
このまま……。
このままここに逃げていても、いつかは夏目さんの恋人の役目が終わるのだから。
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