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ニー。同棲生活⑰

「そ、そうなんだ」 「バイトなら、生協前の掲示板にいっぱい貼ってるから、良いのがあったら写メして相談しなよ」 「あ、吾妻は? そっちのバイト止めようとか思わないの?」 親身になってくれるのは嬉しいけど、俺は吾妻の方が心配だった。 「月何百万って稼げるのに止めれるかよ」 「何百万!? そんなに稼いでんの?」 「あー、でも聖は絶対止めとけよ。騙したり嘘ついたり、裏切られたり楽しいことばっかじゃねえし。お前、嘘つけねえしな」 「吾妻はどうしてそんなに金がいるの? 困ってんの?」 「んーん。エッチが好きだから」 「えっつ」 かああっと全身の血が頭に上った。 そんなあっけらかんと言っていいことなのか。 「あ、ごめん。客には大病の妹の治療費だとか留学費用とか、親への仕送りとか親の借金の肩代わりとか、友達に騙されて借金まみれとか、ゲイである自分を解放したいとか色々嘘言ってるけど、聖には本音を言うな」 どっちかと言うと、そういうウソっぽくてもいいから理由があった方が良かった。 「身体目当てで近づく奴らを蹴散らして、自分に興味ない人を振り向かせるのがすっげ楽しい。だから、わざと馬鹿みたいなバイトして自分を軽んじて、ああああ、ゾクゾクする」 「……掲示板見てくる」 そう言えば、確か夏目さんの弟を一晩百万でたらし込んで何もさせてないって言ってたような。 あの暇さんを弄んでいるなんて、吾妻って強いな。 俺は吾妻の様に強かじゃないしな。 それにバイトって、俺どうしようか。 男の人が多いバイトとか、怒鳴られるバイトってまだ少し怖いかもしれない。 克服はしたいけど迷惑かけたくないし。 女性が多いバイトも恥ずかしくて緊張しそう。 人と関わらないバイトってあるんだろうか。 自分でも嫌になるこのトラウマに、一瞬絶望してしまいそうになった。 けど、一滴の光は見える。 その人を理解していれば怖くない。 例えば、吾妻や夏目さんみたいに俺に嘘偽りなく接してくれる人とか。 契約っていうルールがあるから俺と夏目さんは良い関係を築けているのかも。 *** 「私は、賛成ですけどね」 その日、俺を迎えに来た人ははち切れんばかりの巨乳のお姉さんだった。 朝、夏目さんからタクシーの運転手だけって聞かされてたから驚いた。 あれ、この人ってこの前もきた、花渡さんの妹さんだよね。  あの時はパンツスタイルのスーツだったのに、今日は私服でよくよく見れば、すごく目が大きくて幼いロリっぽさがある可愛い系なのに、身体はエロすぎる。 だ、ダメだ。 緊張してしまう。 「あのさ、私の話聞いてる?」 「あ、聞いてないです」 「次、聞いてなかったら車の中から蹴飛ばすね」 無表情で、どす黒いオーラを放つ彼女は、花渡 式部さん。 花渡さんの妹さんだとわかっているのに、胸のせいで頭に内容が入って来ない。 「うちってさ、身体の内部に入れちゃうアダルト玩具扱ってるじゃん?」 アクセル全開で道路を走り向けながら彼女うは言う。 「だから、バックにヤクザが居た方がうっせークレームを黙らせたりできんじゃないかねって」 「うっせークレーム?」 信号が赤になり、式部さんが忌々しく舌打ちをする。 すると後部座席の俺の方をミラー越しに睨みつけた。 「玩具でイけなかっただの、ゴムが破けて妊娠しただの、パロディグッズで誤飲しただの! ああ、置いてたら子どもに見られた。もっと配慮してコンパクトにしろとかね。たまにがちで弁護士いれて裁判とかあるし」

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