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ニー。同棲生活⑱

……アダルトグッズはアダルトグッズなりにそんな問題とも向き合うんだ。 「使用済みを返品とか、まじオエッだからんな。うちは社長が見た目に反して几帳面だから端々まで拘ってるし。本当にむかつく」 「へ、へえ……」 可愛い巨乳のお姉さんがアダルトグッズに関して熱血なのって、どう反応していいのか分からない。 「だからさ、社長を守るためにもバッグにヤクザ居た方が楽じゃない? 絶対クレーム減るし」 「でも今まで交流なかったってことは夏目さんがきらってたんじゃないっすか?」 「そこら辺はよく分からないんだよね。あんま夏目さんって自分語り好きじゃないし。アンタの方が契約する上で色々聞いたんじゃない?」 ……確かに色々言っていた気がするけど、契約には慎重で俺の身辺調査とかしてたし。 本当に嫌なのだけは伝わってきた。 「俺は契約しただけだから、夏目さんが決めたことに色々言いたくないし、言える権利も無いよ」 「まあ、そうだよね。それに好きになっちゃったら契約終わるとききつそうだしね」 好きになったら……。 「そんなわけないか。怖いのを克服するのが先だし」 「そそ、そうです。それが先です」 一瞬、契約が終わった後を想像して胸が締めつけられた。 あの人は声と顔が厳しいのに、偽装恋人には似合わない俺を、見捨てなかった。 それ以上は甘えたら迷惑をかけてしまう。 本当の恋人が出来た時とか、特に。 「さり気無くさあ、社長にヤクザとの接点の利点を言ってみてよ」 「俺がですか?」 「今、一番身近にいるのは君じゃん」 接点の利点。 なんか難しい言い方だけど、色んな意見も耳に入れた方が良いのかな。 「言えそうだったら言いますね」 「うん、頼んだ」 気づいたら、車は知らない場所へ進んでいた。 見たことない建物を次々と通り過ぎていく。 「あの、どこに向かってるんですか」 「ん。朝聞いたと思うけど、社長が帰り遅くなるっていうから、会社に君を送ってるよ」 やっぱり。 うわー。アダルトグッズ会社ってどんな感じなんだろう。 デートクラブ『ハーツ』は、ピンク色の建物だったしちょっとドキドキする。

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