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サン! 変化②
「受付の二人見たか? 可愛い顔が台無しなぐらい目を見開いてただろ」
キシシと笑う夏目さんに、緊張していた俺が馬鹿みたいだなって嘆息した。
というか、可愛いか。女性を褒める夏目さんに不思議な気分だった。
「あのさ、俺、めっちゃ緊張した。もっと前もって打ち合わせしろよ! ちゃんと恋人っぽいふりできてたか?」
何に怒っていいのか分からないぐらい赤くなったり青くなって慌てたら、クッと小さく夏目さんが笑った。
「ああ。可愛かったぞ」
「かっ」
「そんな風に素で緊張してくれた方が、可愛い」
それって、なんか子どもっぽい俺の反応をからかっているように思えた。
「飲み物はワインでいいか? あ、酒飲めるのか?」
「失礼だな! 21歳だぞ!」
「……強いのかって意味だ」
ムキになってしまったが、強いかと言われたら普通だ。
「ちゃんとセーブできる。なあ仕事の打ち合わせって何? なんの話し合いしてんの」
「聞きたいのか?」
暗黒大魔王夏目。
その言葉が浮かび上がるほど、悪い顔で笑った。
「じゃあいい」
「ウチの社のグッズをエロ漫画の中で実際に出してくれるらしくそれの」
「聞いてないってば! ば、馬鹿じゃねえの! エロ大魔王!」
ばーかと、三回怒鳴ってからエレベーターを降りて社長室へ向かう。
社長室には、大きなテーブルと四脚のソファが中心にどーんと置いてあって、窓際に黒くて大魔王が座りそうなディスク。
多分ハイブランドなんだろうけど、俺には手触りがいいぐらいしか分からなかった。
その少し離れた場所にディスクが二台あり、花渡兄妹がパソコンで作業をしていた。
「花渡さんたちがいるんじゃん」
「ああ、だが打ち合わせの後の契約時には居なくなる」
ということは、彼らが呼ばれたら仕事の終わりの合図なんだ。
「社長、優しいですよね。暇さんに襲われたマンションに一人っきりにしたくなかったらしいですよ、貴方を」
「え、へ?」
「本当に見かけによらずによく気が効くよね、うちの社長。兄が暇さんにセクハラされた時は股間蹴飛ばしただけですもん」
「へえ、え?」
どんな反応をしていいのか迷って夏目さんを見たら、視線を逸らされてしまった。
「私はあれで十分でしたよ。顔出しの仕事をされている暇さんが怪我したって因縁つけられても困りますし。次、押し倒されたらタイがどこかでニューハーフにさせます」
「お、それ面白そう! 流石兄貴」
「おい、仕事に専念しろ。聖は置いていくからな」
結局視線は逸らされたまま、夏目さんは社長室から出て行ってしまった。
「夏目さん……」
「あれはかなり図星だったようですね。可哀相なので話を逸らしておきました」
「花渡さん?」
「さーって、休憩にするか。冷蔵庫にさあ、社長の大好物のキャビアが入ってるんだけど、クラッカーあるし聖くん食べてよ。で、社長が怒るか試そう!」
「止めなさい。怒った場合、1グラム8千円のキャビアを聖君が弁償できないのですから」
二人は兄妹だけあって、馬があった生き生きした会話をどんどん展開していき、なんだかまんまと話がすり替わってしまった様な気がする。
でも夏目さん、お肉が好きって言ってたけどキャビアも食べるんだ。
キャビアって美味しいのかな? いくらの粒が小さい感じ?
「じゃあ、打ち合わせ終わったら一番に来るからそれまでワインでも開けて待ってろ。喜べ、好きなだけAVがあるぞ」
式部さんがうきうきとお菓子や缶詰、高級そうなワインを持って来る。
そして段ボールに入ったままのAVまで。
「見るわけないだろ」
夏目さんの家にもいっぱいあるのに、会社で見るはずもない。
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