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サン! 変化④

「部長―!『女教師の調教しちゃうぞ!?』の初回特典が足りません」 「お、おんなきょうし!?」 「部長―! 『ごっくんごくご(自主規制)』足りません!」 「ごっ!?」 「聖くん、ミスを少なくするために作業員たちは自分の担当の商品の名前を言いながら、クレーンやベルトコンベアに乗せます。マテリアルハンドリングが主ですが、通販みたいに数が少ない出荷の場合……」 「兄貴、聞いてないよ」 花渡さんの難しい話はなんとなく分かったけれど、は、恥ずかしすぎる。 AVのタイトルを大声で叫ぶなんて中学の罰ゲームみたいだ。 「安心して下さい、聖くん。俺も全くこの仕事が出来る気がしません」 「花渡さん……」 「聖くんにあうバイトも探せばあるでしょうが、ここじゃないです」 良かった。というか、花渡さんが無理だって言った時に、ちゃんと聞くべきだった。 突っ走って恥をかいただけで、時間を取らせて申しわけなさすぎる。 式部さんは「なさけねえなあ」とため息を吐いたが、ふと視線を横に向けた。 「じゃあ、向こうは? 出荷前に玩具が壊れてないか電池入れて動かす奴。ウィンウィンって」 「う、ウィン、ウィン……?」 「式部、止めなさい」 「いいってば。ほら、ちゃっちか行くだろ! 聖」 「あ。はい」 ウィンウィン? 分からないけれど、此処よりは俺に向いていると良いな。 遠ざかっていく花渡さんの顔を見ると、俺を見て合掌しているのが見えて青ざめる。 「な、夏目さぁぁぁん!」 大声で名前を呼んだけれど、その声は倉庫に響くだけで夏目さんには届かなかった。 *** 「じゃ、電池入れて動いたら製造番号書いた紙入れて袋に戻してね」 その会議室ぐらいの部屋には、妙齢をとうに過ぎただろう女子たちが、グロテスクな玩具を持ってウィンウィンさせていた。 表情はとくにない。 料理中に野菜を切るかのごとく、日常の一コマのように、アレの様なアレを、躊躇なくアレしている。 ダメだ。混乱してもう良く分からない。 「へえ、これが今の売れ筋なんだ。きっも。ほら、聖くん、いつか使われるかもしれないんだからよく見ときなよ」 「せ、セクハラです!」 俺が使うかもしれないだろ。なんで使われる側なんだよ。 だが何もせずに場を荒らすだけは避けたい。一応、金をもらう経験をしておくべきかもしれない。 *** Side:夏目 あいつに呼ばれた気がして振りかる。 が、会議室のつまらん無機質なドアがあるだけだった。 「で、漫画で本当にこのグッズを馬に装着して――」 「あー、面白いんじゃないっすかね」 俺は使う玩具さえ決めてくれたら、許可を下ろすだけなんでちゃっちゃか決めてほしい。 ピンクのローターみたいな安っぽい玩具は毎日見てると、スマホ並みに慣れてしまう。 『うわっ な、な、な、なんだよこれ!』 だが、打ち合わせに飽きた俺は一瞬、妙な妄想をしてしまった。 いま、此処に、聖がいたら、きっと真っ赤になって挙動不審になってしまうだろうと。 いや、歳が離れているからただ単に弟のように可愛いと思っているだけだ。 それだけだ。 なのに、キスしてしまった俺は、自分で自分の首を絞めている。 一緒のベッドにこれからも多分眠るだろうし。 ご飯も一緒に食べるし、先ほどみたいに周りに恋人だと錯覚させていく。 その時に、自分こそ聖の恋人だと発覚してしまいそうで、――それだけが怖い。

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