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サン! 変化⑤

「あとは任せてもいいか?」 打ち合わせ中の全員が一斉に俺の顔を見た。 「や、悪い。心配事があるんんだ。それと仕事では自由に発言してほしいが俺が居たら委縮するだろ。慣れてほしいが、俺が居ない時間があったほうがいい」 どうも俺の発言力は強く、それでいて見た目からか迫力もあるらしいし。 「……ちょっと恋人が心配で落ちつかねーんだ。お前達の事は信頼してるから」 椅子にかけていたジャケットを手に持ち、呆然と見つめているスタッフ達に会釈する。 すると、驚きながらもコクコクと納得してくれたようだった。 「じゃ」 「……どこに行かれるつもりですか」 ドアを開けると同時に、花渡が立っていてぬめっと睨まれた。 「げ」 「げ、じゃありません。今、社長、私情を挟もうとしていましたよね!?」 「お、お前こそ、聖を見とけって言ったろ! 何してんだ」  人のことを言わせないぞと睨むが、花渡は白い目で俺を見るのは止めない様子。 「話をそうやってすり替えて子どもみたいですね。聖君でしたら、式部と一緒に倉庫とテスト室の見学です」 「は?」 「今頃、怖くて泣いてるかもしれませんね。童貞っぽいし」 「お前、なんで止めなかったんだ」 「止めましたが、止まらない妹がいまして」 淡々と報告するが、多分こいつの事だから最大限努力はしただろう。 元々妹に激甘のこいつには止められるはずがない。 「頼りにならねえな。ここは任せるぞ」 「――社長」 花渡が俺の目の前に手を出し、通せんぼする形で睨みつけてきた。 「だから俺は言ったんです。貴方は情が厚い上に優しすぎる、と。だからお金の関係で雇える相手と偽装恋人契約をするはずだった」 「何が言いてえ?」 「聖君に情を持ちすぎです。同情の方が多いでしょうが、聖君みたいな純粋な男の子を傷つけたいんですか?」 「……」 「社長、小動物とかお好きですからね」 不器用で、いじらしくて、馬鹿みたいに真っすぐで。 ついつい手を差し出して甘やかしてしまいそうになるのは、聖の心が無垢で、俺の金や権力に媚び諂うこともないからだ。 それが契約のせいだとしても。 それだけで俺は、聖に心を揺さぶられかけていたのかもしれない。 「迎えに行ってくる」 「社長っ」  花渡が腕を掴んでくるが、振り払う。  花渡が正しい。そして、俺がおかしい。 「俺は確かに、親がAV女優だとかアダルトグッズ会社の社長だとかで他より奇異な目で見られたが、金銭面では苦労してないだろ。大学生が勉強したいのに居場所もなく、トラウマもあるなら、少しぐらい優しくしても罪じゃない」  壊れた母親を見て育ったせいか、危なっかしいあいつを守ってやりたくなる。 「契約終了後は?」 「それまでにあいつなら強くなる」 そんなに弱い奴ではないと思う。 姉の為に所持金ほぼなしで飛び出す様な奴だ。 花渡は呆れ顔だったが、俺にこれ以上何を言っても無駄だと察したようだった。 「お前は心配しずぎだ。なんかあったら俺はちゃんと責任持つから安心しろ」 バンバンと細い背中を叩くと、大袈裟に吹き飛んだので笑ってしまった。 「お前こそ、女みたいに細いとまた襲われちまうぞ」 「それこそ余計なお世話です」 もう心配してやらないぞ、と言わんげな不満そうな顔についつい苦笑してしまう。 そのまま倉庫へ向かおうとして、ふと窓の外を見下ろす。 「……おい、花渡。あの車、今朝からあそこにあるな」 「ああ、では貴方を調べに来たヤクザさん側のものでしょう」

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