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サン! 変化⑥
「っち」
「あれ、今の顔、そこらへんのヤクザより怖いんじゃないですか? その顔で脅して来た方が早いんじゃないでしょうか」
「うるせー。俺は穏便に生きると決めたんだよ」
「そーですか」
明らかに棒読みな花渡の言い方は腹が立つが、今あの車に乗っている奴らを引きずり出してぶん殴っても何も解決しない。
これはちょっとだけ複雑でややこしい。
それに、何も知らない無垢な大学生を巻きこむのは少し不憫なのかもしれない。
が、無知ゆえに、あいつはきっと今さらその役を降りないだろう。
俺の事も信用しているし。
「離せ! 夏目さん! 助けて、夏目さん!」
「……聖か!?」
次は幻ではなかった。
本当に助けを求める聖の声に、俺はエレベーターではなく階段で倉庫の方へ降りて行く。
「聖!!」
「夏目さん!」
倉庫の、梱包部屋から飛び出して来た聖は、潤んだ瞳で俺の元へ走ってくる。
すると、思いっきり俺に抱きついた。
恋人契約中なのだから仕方ない。
当然の形だ。
「どうした?」
「ぐ、グロイ」
「ぐろい?」
「吐きそう」
真っ青になった聖が口を押さえる。
「ま、まて、今すぐトイレに連れていく!」
ひょいっと荷物のように持ち上げて、トイレまで走った。
ザーッと水の流れる音とともに、バシャバシャと顔を洗う聖。
それを壁に寄りかかって俺が見ていた。
「大丈夫か?」
「び、びっくりした。なんか……女性のアレを真似て作ったあの筒状の奴、グロかった」
……あっさりと童貞だと分かる発言をしながらも、俺の方を見上げる。
お前、威勢よく童貞じゃないと啖呵を切ってたんだぞ。三歩進んで忘れてるよな。
「夏目さんの仕事をもっと理解しようって思ったんだ。だけど、怖い! あの卑猥な玩具を淡々と袋詰めするおばさんとか! 倉庫で卑猥なタイトル連呼しながら運ぶのとか!」
「……うちはそんな商品の会社だ。で、倉庫に居る人たちは俺の会社を支える大事な社員だ。勝手に見ておいて怖がるのはおかしい」
社員一人ひとりが責任をもって行動してくれているからこそ、なりたっている。
が、トラウマの部分を抉られてはないようなので安心した。
「あっごめっ」
「金貰ってる時点で俺は自分の仕事を恥じてないから、別にいいが……気にしてるならちょっと大人しくしてもらおうか」
「え?」
「俺達のラブラブな姿を見せつけたい奴らがいるんでな」
「……うん?」
きょとんとする聖に、にやりと笑って頭を撫でた。
俺のその不気味な笑顔に、聖は何か冷や汗を掻きだしたが知らない。
「今から何があっても怖がるなよ」
「な、何するの」
腕を掴んだ俺に対し、怯える様子はない。
なのでひょいっとお姫様だっこで抱え上げると、顔を真っ赤にした。
小さいと思っていても一応男だ。
女より全然重い。
「お前の初体験を一つ、奪ってやろう」
「は!?」
「暴れるなよ。契約上、拒否権はねえからな」
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