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サン! 変化⑦

Side:氷田 聖 夏目さんは、俺をお姫様抱っこで倉庫からわざわざ外に出て、会社に戻った。 会社と倉庫は二階に通路があるのに、わざわざ外に出て俺を見せつけるかの如く軽々と抱えて、そして一階で花渡さんを呼び出した。  会議の結果の報告だけ電話すれば、契約して構わないと。  夏目さん、その会議で遅くなるから俺を呼んだんじゃなかったの。  そんなあっさり任せて帰ろうとしてていいの。  そんなにまだ時間は遅くない。昨日よりも全然早い時間だ。 なのに、社長の癖に夏目さんはさっさと車に乗り込むと、助手席の俺の肩を引き寄せた。 初体験ってなんだ!? この肩引き寄せからのなんだ!? 「じゃあ、いいか、――会社から出たらすぐに俺を監視している車が見えるから見せつけるように出るぞ。視線はそっちに向けるなよ」 「え、う、うん」 耳元で囁いた夏目さんはそのままわざと徐行運転しつつ、駐車場から出る。 視線をそっちに向けるなと言われたが、どこに居るのか分からなかったからひたすらに夏目さんの顔を見上げた。 「うし。着いてきた。このまま、距離を保ちつつ向かう」 「向かうってどこ?」 「一番恋人だって見せつけられる場所だな」 その意味が分からずに首を傾げると、夏目さんがクッと笑う。 「俺的には、今すぐ車を止めて殴り合いした方がスカッとするんだがな。こんな回りくどいやり方、嫌になる」 「でも、あの! 式部さんがバックにヤクザがいるのは良いって言ってましたよ!」 「そりゃあ、何も知らねえ中途半端な奴の台詞だな」 夏目さんがミラーを確認する。 「来てる?」 「ああ、一定の距離を保って来てる。ばればれだっての」 夏目さんも穏やかに運転しつつも、ミラーをチェックするのに余念がなかった。 「堅気だの仁義だの通す真面目なヤクザなんざ、ほとんど絶滅してんだよ。今は、自分のシマを広げる為に、えげつねえことばっかする。例えば」 重く、夏目さんの口が開く。 「あーゆう力を誇示したい奴らの下っ端は、大体弱い女や子どもしか狙わない愚図が多い」 「夏目さん……」 「ヤクザと関わったって損するのは、弱いやつらなんだよな」 式部さんはそんな事まで考えてはいなかったんだろうと思う。 けれど、一瞬で空気がピリリと張り詰めたのが分かった。 この人は、汚い部分を直接見せつけられてきたんだろうか。 「お、着いたぞ。ここ、ここにするか」 「こ、ここ?」 車ごと入っていくと、大きなピンク色のお城のホテルが見えてくる。看板がミラーボールみたいに煌めいている。 「ここ、温水プールもある部屋とか、ダーツ出来る部屋とかもあるし、何と言ってもだな」 「な、何と言っても?」 「朝食が、ステーキらしい」 「ステーキ!?」 お肉大魔神か! 朝食にステーキって確かに凄いけど、でもここって。 「ただのホテルではないよね?」 なんで駐車場の車の横に、ドアがそれぞれあるの。 これって車一台に一つの入り口? 「ペントハウス型のラブホだから」 「なるほど、ラブホなのか、ここ」 へえ、俺に初体験をやるって言ったからなんのこっちゃと思ったけど、そうか。 ラブホなんだ。 って。 「ラブホ!?」 「ああ。どこの駐車場が温水プールだ? っち。平日なのにほぼ満車かよ」 「ら、ラブホ!?」 「安心しろ。意外とラブホも料理がうめえ」

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