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サン! 変化⑬

日にちが代わるぐらいの頃、ゲームのコントローラーを持ったまま聖が眠った。 温水プールだけで、風呂に入った気分になってしまったんじゃねえだろうか。 思い切り腹を出して眠る糞ガキに、優しくしたい感情以外のモノが確かに芽生えつつあった。 恐怖に落としかねない、何か、が。 指先でなぞる唇が、ふにふにと柔らかいことに心がざわめいた。 少し指を押し込むと、簡単に小さく口を開く無防備なその姿。 このまま何をしようが、起きそうもない聖の姿に一瞬魔が差す。 覆いかぶさろうとした俺に、テーブルの上に置いていたスマホが忠告するように震えだした。 「っち」 それは、警告だったのだろうか。 電話の相手は花渡だった。 「どうした?」 『夜分遅くスイマセン。お仕事お疲れ様です』 「ああ」 『向こうの弁護士から直接貴方に会いたいと連絡が来ましたがどうしますか?』 「ほお……」 思ったよりも向こうが早く動きだした。 *** Side:氷田 聖 遠くから聞こえるシャワーの音に飛び起きた。 うわ。今何時だろう? 慌てて携帯を探すと、充電20パーセント。 2限目には余裕で間に合うけど、すっげ熟睡してしまった。 シャワーの音以外には、良い匂いがする。 本当にステーキの朝食がサービスされてるんだ。 玄関に向かうと、ステーキと食パンという妙な組み合わせのセットが置かれていた。 「……」 ラブホに来て、温水プールとゲームと肉食うだけって絶対ラブホの無駄使いなんだろうな。 かといって、偽装の俺らが何かするわけにはいかないけど。 「お、起きたのか。肉食うぞ、肉」 「そればっかり。珈琲は?」 「飲むがお前はじっとしてろ」 インスタントなんてお湯入れるだけだろ。 それぐらいなら俺だってできるのに。 夏目さんは濡れた髪から滴を落としつつ、腰にタオルを巻いただけの超セクシーな恰好で珈琲を入れだした。 朝から、なんて言うんだろう。雄全開みたいな。 なのに、とても静かな朝食だった。 カチャカチャと食器とフォークが当たる音が響いている。 「……なんだか夏目さん、変。俺のステーキ食べる?」 「人のもんまで食べねえよ。お前は細いんだから残さず食べろ」 いつも通り口調は怖いし偉そうなんだけど、心なしか憂いを感じる瞳に不安になる。 夏目さんみたいな、恵まれた環境で、憧れるような容姿で、自信も溢れてそうな大人が、こんな表情をするなんて。 「本当に何でもないが、あるとしたら」 「うん」 「面倒な仕事が入ったってことだ。今までできっと一番厄介な、な」 「ふうん?」 「だから今日は仕事場に連れて行けねえ。俺のマンションだが、式部か、吾妻でも呼んで騒いでも良いぞ。ちょっと遅くなる」 「それは嬉しいけど、厄介な仕事って大丈夫なの? 本当にバックにヤクザいなくて大丈夫?」 ステーキを口に入れながらなんとなく聞いただけなのに、ギッと夏目さんの目が光った。 「簡単に言うんじゃねえ。あんな奴ら、要らねえんだよ」

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