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サン! 変化⑲

ヤクザがいるってことか。 俺のしょぼい想像力では、ヤクザって暴力的で拳銃持ってて、怪しい薬で御金稼いでるイメージだけど、守ってくれるなら良いヤクザがいるってこと? もし、夏目さんを跡目にしたいって言ってるヤクザがイイ人だったら、きっと色々助けて貰えるの、と思ってしまう。 ただ、夏目さんのあの様子ではそれも叶わない。 「ほら、遅刻すんぞ。急げ急げ」 吾妻に手を引かれ、俺は走った。 走った向こうに何が見えるかも分からずに。 例えば――。 俺はあんなトラウマが起こるまで、かなり世間知らずのダメな奴だったと思う。 それでいて、俺に刺激をくれたのは夏目さんだとする。 すると、知れば知るほど、夏目さんの事は分からなくなる。 顔に似合わずイイ人だとは分かったけれど、仕事だからとやんわり離れた距離で接せられて、結局俺はあの人の何も知らない。 大学の講義は、聞いたらノートを取る。 そのノートを持ちこめて試験が受けられる。 それで解けない問題は無かった。 けれど、これはどこにも答えは書いてないし、正解を導きだしてはいけないような気がする。 *** Side:夏目 拓馬 例えば、自分が弱者だった場合、それは誰にも迷惑をかけないわけじゃない。 俺が弱いと分かれば、会社や社員に攻撃してくるようなクソ野郎たちだ。 だから俺は、この件だけは絶対に引くつもりはねえ。 札束で殴ってでも、終わらせてやる。 会社に着いて、車を花渡にキーをつけたまま渡すと、待っていた暇と一緒に一台の車に近づいた。 ここ数日ずっと粘着質に着いてきた車に。 「ねえ出てきてよ」 最初に話しかけて、挑発を始めたのは暇だった。 「それとも、あんたらの組長みたいなクズが死んで立ち上がれないの? あ、まだ死んでなかったらごめんね。興味無くて」 「暇。あまりからかうな。脅せば何でも手に入ると思ってるクズだぞ。暴力しかできねえくずだ」 なので思いっきり運転側のドアを蹴りあげた。 何度も何度も。 そして、花渡の事務所のベテラン弁護士数人もやってきて取り囲む。 「さっさと出て来いよ、九州のだっせー田舎のヤクザ崩れさん」 ゆったゆったと大きな身体で車から出てきたのは、白のスーツの言葉通り田舎丸出しのいかにもヤクザですと言った風貌の男だ。 こっちの本筋の奴らは必要以上にメンチ切ったりしないし、争いごと以外では温厚なふりを装うのに対して、こいつは明らかに威嚇していた。 だからこそ、大したことない下っ端だと分かる。 「俺を調べるのにこんな下っ端寄こすとは、本当に今、組の存続が危ういみたいだな」 「そのまま苦しまずに死んだ方が可愛い孫の俺達のためなのにね」 暇がクスクスと笑うと、車の後ろに乗っていた男がその白スーツの大男に扉を開けて貰いながら静かに出てくる。 「貴方は孫の価値もない種のモノでしょう。うちの組が欲しいのは、選ばれた血筋の拓馬さんだけです」 深緑の略礼装に身を包み、羽織に組の紋がついている。 こいつが九州からのお客だと分かった。 「ぷ。品が良い感じを装ってるけどヤクザはヤクザでしょ? ってか偉そうな感じなのに、その車の中でずっと張ってたんだ。ウケる」 暇は自分の出生を理解しているので、この男がそれを蔑んでも痛くもかゆくもないだろう。

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