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サン! 変化21.5

「え、なんで」 「聖君に話があるけど、男が怖いならこーゆー安全な所で話すしかないじゃん。でも聞かれたくない」 聞かれたくない内容? 「な、んですか?」 「今後の契約と兄貴について」 簡潔にそう伝えちらりと目を光らせた。 俺を見下ろすその目は、この前のあのふざけた暇さんではなく真剣なのが分かった。 「吾妻、ごめん、少しだけいい?」 「聖がいいなら、いいよ。向こうで待ってる」 吾妻がテーブル三個向こうに座ると、スマホの音楽をヘッドフォンで聴き始める。 それを確認してから、ふーっと暇さんは息を吐きだした。 「さっき、向こう側の奴らと会ってきたんだわ」 「……九州のヤクザ関係の?」 正面に暇さんは座ると、小さく頷いた。 「……誰にも言わないで欲しいんだけど、兄貴が――」 一瞬、言葉を詰まらせた暇さんは、少し顔を逸らしてから話を続けた。 「俺と兄貴の母親が、組同士の権力争いが勃発した時に誘拐されたんだけど、長い話なんだ。聞いてくれる?」 パーカーの帽子を下ろすと、真面目な顔の暇さんがそこにあった。 「……あの、深刻そうな話なのに俺にしていいの?」 「兄貴が誤解されるより、いい。全然いい」 意外と仲が良かったことに驚きが隠せない。 でも、そんなものなのかな。 「で。聞くんだよな?」 ほぼ強制だと言わんばかりの口調に、俺は覚悟を決めて頷いた。 「じゃあ、はっきり言うけど、俺と兄貴は同じ母親から生まれたんだけど父親が違う。でも俺は兄貴の父親の母方の名字――祖母ね、そっちの姓を名乗らせてもらってる。養子縁組したんだ」 「なんで夏目さんの父親としなかったんですか?」 「……母親が俺を見ると狂うから。でも俺のことを兄貴と兄貴の父親が匿ってくれてたんだ」 ヘビーな内容に目をしどろもどろに動かしてしまったが、暇さんは無表情だった。 「後継者問題と組の権力争いで、母親の組が有利だった。で、反撃したかった敵対してる李達(いたち)組っていう中国系が混ざった奴らが、一人娘の母さんを誘拐、暇つぶしに暴行。暇つぶしだから、俺の名前は暇」 「暇つぶし……」 「そ。暇つぶし。まあ兄貴はそれも聞いて怒ったけど、名前付けたのはおかしくなった母親だし。でも一番は、誘拐された母親を探そうとせずに放置していたあいつらが、孫だけは欲しいと言ってきたこと。兄貴の父親が探し出した時には既に俺を妊娠してたらしい」 言葉が見つからず、絶句というにふさわしいこの状況で、暇さんは少しだけ寂しげに笑った。 「兄貴は、穏便に済ませたかったんだ。母さんの傷を抉られるから。あんな奴ら、死んでしまえばいいって意見は俺も兄貴も一緒」 「夏目さんはどうするんですか?」 暇さんは優しくわらう。その意味が分からなかった。 「それはおチビちゃんには言えない。けど、兄貴がこれからどんな行動したり、どんな乱暴な言葉を吐いても、きっとそれは本心じゃないってことだけはおチビちゃんに伝えておきたかった」 「……自分だって傷ついてるのに、夏目さんの為にわざわざ伝えてくださったんですか?」 俺には全然知らない世界の、冷たくて想像できない恐怖を、暇さんは淡々と語った。

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