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サン! 変化22

「だから、相手は感情というか、人に向ける情とかないやつらなんだ。おちびちゃんが、契約で付き合っていただけで兄貴と何も関係ないならそれでいい。でも利用できる奴だったら危険なんだ」 「俺、別に夏目さんの大切な人じゃ、ないです。夏目さんが親切だから、弱くて情けない俺を保護してくれただけで」 「なら話は早い。今はもう契約はしなくていい」 その言葉に顔を上げる。 暇さんの顔は、意地悪で言ってる素振りは無く、本心からだと伺えた。 「今日にも兄貴から契約が切れると思う。けど、兄貴は悪くないし責めないでほしい。責めるなら、生まれてきた俺を責めても良いけど」 「暇さんは悪くない!」 俺の大声に食堂中の視線が集まったけれど、真っ赤になりながらも首を振る。 「悪くない! でも俺は、――きっと暇さんより馬鹿げた内容で傷ついたふりをしていた。俺も、夏目さんに頼ってばかりはもう辞める」 本当は、今朝の出来事から頭の中はぐるぐるしていた。 吾妻が余計なことを言ったからだけど、俺は多分あの場で吾妻が居なかったら、夏目さんに慰めて貰うことしか頭の中に無かった。 彼ならば、俺の事を全て包み込んでくれる。 心の中でそう思って彼に甘えていた。 全力で。 背負うものが多すぎる彼にとって、たかが契約者である俺が負担になっていたかもしれない。 この先も、負担になるのだけは嫌だ。 「……大丈夫です。夏目さんには感謝さえすれど、恨んだり責めたりしません。いつか、――いつか俺、男性が怖くなくなったら夏目さんにお礼を言いに行きたいぐらいです」 言いながら一滴涙が零れ落ちた。 床に突き刺さる、柔らかくて小さな涙。 けれど、痛みが胸を締めつけていた。 こんなこと、予期していなかった。 けれど、契約には終了があるんだ。 俺が思っていたより、契約が短くなっただけ。 「暇さん、何をしてらっしゃるんですか?」 式部さんの声がして、俺は咄嗟に涙を拭いた。 「聖さんに何か?」 「……っ」 「俺の新作ゲイビ『褌畑で捕まえて☆』を渡しにきただけ」 胸元から、小麦入りの肌一面のパッケージのDVDを取り出され俺は固まったが、式部さんは、片手でそれを握りつぶした。 「今から聖さんを送っていきますが、貴方は?」 「俺、今から仕事☆」 またパーカーを頭から被ると、彼はにやにや笑いながら去って行った。 式部さんは嘘ん臭そうな顔で暇さんを睨みつけている。 暇さん、最初の出会いはアレだったせいで怖くて苦手だったけれど、でも悪い人じゃない、のかな? そんな過去がありながら、なんでゲイ男優なんてやってるんだろう? 「遅くなって悪いね。行くよ」 「行くって?」 不思議そうに聞き返すと、式部さんは怪訝そうな顔をした。 「社長の家に帰るんでしょ?」 「えっ」 帰れる――。 今日はまだ帰れるんだ。 そう思うと、ホッとして泣き出しそうになる。 「ああ、大丈夫だ。あんたは契約者だって向こうにばれてる。でも本題の話し合いが始まった以上、もう人質になる様な価値もないはずだよ」 「あはは」 「でも姉の元には帰れないって言ってたから、今日はオススメの引っ越し先の案内を用意してきたよ」 「オススメの……」 「ねー、話終わったの?」

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