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サン! 変化23

吾妻が不満そうに俺の首に抱きつきながら聞いてくる。 「終わったよ」 「じゃあ早く言ってよ。一人で寂しかったじゃん」 ちゅっと抱きついた吾妻に頬に口づけされほとほと困ってしまう。 悪い奴ではないんだけどな。 吾妻は悪目立ちするのが好きなのが駄目だ。 「暇さんといい、この子といい、折角の美形なのにゲイなんだよねえ」 「俺ゲイじゃないよ! バイ寄りの女の子好き!」 「信じられるか。お前はどうすんの? ついでに送って行こうか?」 「わーい。と言いたいけど俺バイトだから。聖は大丈夫?」 今朝の事を心配してくれているようなので、暇さんの話で落ち込んでいたけれど平気そうににこりと笑ってみた。 「勿論だよ。式部さんが居るし」 「まあそこらの男よりは強いかもしれないけどね」 ニヤニヤと粉々にわれた暇さんの持ってきたDVDを見ながら手をわきわき動かす。 「本当に花渡さんの妹とは思えない」 「生まれてくる時にお互いの性別を間違えたみたいだな」 「あはは」 無理やり笑った俺の口から、カラカラと声が落ちていく。 自分の娘さえ冷酷に切り捨てる人が夏目さんのおじいさん。 嫌だなって思ったのが正直な気持ちだ。 あの人は、見た目はヤクザさんに似合うかもしれない。 見た目だけできっと勧誘してる。あの人が中身は優しくて良い人だって知らないんだ。何も見ていない。 そんな人たちから、恐怖であの人が押さえつけられるって嫌だなって思った。 他人なのに。 今ならただお金だけであの人と契約しただけだから、俺は巻き込まれないで済むのに。 暇さんは勘違いしている。 俺は夏目さんから何を言われてもきっと、泣いてしまうよ。 あの人はとても優しい人だから。 俺はあの人がくれる温かい空間にずっと包まれていたいって、思ってる。 情けなくて頼りない、ダサい男だ。 おれになんか勘違いされてもあの人は傷ついたりしないし。 「……あのさ、社長には内緒って頼まれたんだけどね」 「へ」 「着いてきなよ。遠くから見せたいものがある」

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