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サン! 変化24

Side:夏目 拓馬 週刊誌や新聞やらテレビにいつでも情報を流せるように手配は済んでいた。 会長である親父は、好きにしていいと笑っていたし、向こうも本当に俺か暇が跡取りにさせられたら、――次はきっと向こうを殺してしまうんじゃないだろうか。 普段は馬鹿みたいな親父だが、きっと取り返しがつかないことになるだろう。 今、俺を見張っている奴らはうちの弁護士と話し合い中。 確認したが周りには俺を見張っている奴らは居なかった。 一応、女性向けのカフェで待ち合わせし、怪しい奴らをシャットアウトしつつ、彼女を待った。 待ち合わせ3分前に、慌ただしくカフェに入ってきて、あちこち見渡しながら俺を見つけて、ホッとしたように近づいてくる。 心なしか顔が笑顔だった。 「カフェに似合わない怖面のスーツって言われて、貴方しかいませんでした」 花が咲き乱れるような、温かい笑顔で俺に話かける。 聖同様に、人を疑うことをあまり知らない人のようだった。 「突然お呼び出し申し訳ありません。氷田あかりさん、ですね?」 俺が名刺を差し出しながら言うと、彼女も名刺ケースを出した。 「はい。家出した氷田聖の姉です」 長い髪を耳にかけながら、座るとメニューを見た。 弟が心配だと言う割には、メニューに目が行く余裕があるのか。 「聖君ですが、此方が困っていた時にバイトを引き受けてくれまして。その時に家に帰りたくないと聞き、うちで保護していますが元気です。ソレだけはお伝えしたくて」 メニューを眺めていたあかりさんは、パタンと閉まる。そしてテーブルに置くと泣き出しそうな微笑を浮かべた。 「弟には苦労をかけたくなくて、人一倍甘やかしてしまったかもしれません。そちらで迷惑をかけていませんか?」 「……いいえ。彼の真っ直ぐな性格にこちらも元気を貰っています」 「そうですか……」 喜ぶべきか複雑そうだったけれど、彼女は手を大きく上げてウエイトレスにドーナツと珈琲を注文した。 その手に、指輪が嵌められていないのに気付いて眉を顰めた。 調べた時にはしていたはずだ。 俺の訝し気な視線に、彼女は指を触りながら清々しい笑顔を見せてくれた。 「聖が居なくなった時、ベッドの下にピアスが落ちてたんです」 聖は耳にいくつもしているので、本人も気付いていないかもしれない。 「あんな奥まで転がるなんておかしいなって思ったら、その横にボタンも転がっていて……変ですよね。一瞬で御手洗さんを疑っちゃったんです。結婚するまでエッチしないって言われたのは、大切にしてくれていると思っていたのに、一瞬でそんな彼を疑っちゃいました」 チョコでコーティングされたドーナツを、飾りっ毛ない手入れもしてないような爪の手で掴むと、大きく口を開けて食べる。 小さくてしっかりした雰囲気なのだけれど、飾らない素の彼女は、女版聖みたいで嫌ではない。 「……聖は御手洗さんに恐怖を感じて逃げてしまったのか、それとも私が御手洗さんから守ってあげられない頼りない姉だから逃げ出したのか……何があったか分かりませんが、私には頼れない事だけは理解しました」 諦めにも似たその発言には、清々しいほど真っ直ぐな声で語られた。 「だけど、聖にこれだけは伝えて欲しいんです。私、御手洗さんとは別れるけれど聖が責任を負うことは何もない、と。御手洗さんと別れても、私が頼れないならば、援助はするから振込先だけでも教えて欲しいって」 お金が無いと、心まで寂しくなることを、私は知っています。 彼女は強い眼差しでそう俺に言った。

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