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サン! 変化25

「聖は、甘ったれで我儘で世間知らずですが、ですが人を傷つけたりしない真っ直ぐな良い子なんです。ちょっと人より感受性が豊かだから、だから、人の痛みに敏感なんです。――だから今、あの子が胸に痛みを抱えているならば、私の傍でそれが痛むならば、会えなくても我慢できる。あの子が痛がってなければ」 確かに、表情はくるくる変わる。 人を信用し過ぎる分、裏切られた時、人一倍傷つくのだと思う。 今もきっと姉の痛みに敏感になってる。 あんなにも傷ついている癖に。 「それは長所ですね。彼の良いところだ。痛みが分からない人間は俺の周りに溢れている」 「夏目さん?」 「だから俺は、彼を選んだのだと思う。彼に会えてよかったと、貴方を見て思えた」 暇や俺の親の過去は、きっと聖にとって激痛の痛みを味わう。 それならば、一刻も早く彼をこの姉の元に返したい。 心からそう思えた。 *** Side:氷田 聖 高校の入学金だけでなく、修学旅行の積立金、制服や教科書代。 親が蒸発してから、姉ちゃんはそれらを苦しそうな表情もせずにどこからかお金を工面してくれた。 今、俺の目の前でドーナツを食べている姉ちゃんは、その時の姉ちゃんに似ている。 苦しいとも悲しいとも叫ばず、にこにこと目の前のどーなつを食べる幸せを感じている。 全て会話は聞こえていた。 ただ、二人から死角になる観葉植物の陰で俺は隠れるように泣いた。 今、話しあっている二人が、俺は心の底からわき上がるように切に愛しいと思う。 抱きしめて、抱きついて泣き叫びたいほどに愛しいと思う。 「……胸が痛いの?」 式部さんが、グラスの底の珈琲をストローでズルズル吸いあげながら、胸を押さえて泣く俺を見た。 「うん。すげえ痛い」 「……幸せな痛みだな」 クシャクシャのハンカチを渡されて、思い切り鼻をかみながら、痛む胸を押さえて泣いた。 夏目さんの家は、温かくて愛おしかった。 けれど、帰らねば。

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