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ゴー! ゴーゴゴー!①

朝起きると、既に花渡さんが待っていてくれていた。 所持金数百円の俺を、吾妻の所へ届けてくれるらしい。 「社長は?」 「夏目さんならぐっすり眠ってますよ。昨日、ワイン大量に飲んでたし」 「それは確かに起きないでしょうね」 短く会話した後、吾妻のマンションに到着した。 「聖くん、これ領収書です」 「領収書?」 「本当に契約だったと、形に残しておかないと調べられたら困りますので」 封筒に入った領収書を貰った。 日数とか、金額とか、そんなリアルな数字は見たくなくて鞄の一番下へ押し込んだ。 「……今までありがとうございました」 「いいえ。中途半端になってしまってすいませんね。社長がもう少し行動を早くしてくれてたら、巻き込まれずに済んだのに」 「え、やだ! 巻き込んでもらえて、夏目さんに会えて良かった!」 俺がたった数日一緒に居た時間を、そんな風に言わないでほしかった。 「バイト始めて、金額溜まったらまた連絡するから!」 「了解致しました。それでは、また」 「聖!」 花渡さんの乗った車を目で追いながら、涙が込み上げてきた瞬間、名前を呼ばれて引っ込んだ。 「吾妻……っ」 「聖!」 吾妻の横に、姉ちゃんも居た。 「花渡さんに下りて来いって言われたんだ」 「私も。此処に迎えに来てやってくださいって」 「まじかよ……」 吾妻が住んでいるマンションは、吾妻の親が買ってくれたもの。 ……と吾妻が言ってたが夏目さんの住んでるマンションに劣らないほどリッチな高級マンションで驚いた。 「何に驚いてんだよ。ほら」 ぽんっと背中を押されて、姉ちゃんの前に一歩踏み出す。 姉ちゃんは怒りもせずにこにこと笑っていた。 「……ただいま」 「ここ、まだ家じゃないけどね」 「んだよ、その言い方」 「嘘嘘! おかえり。一緒に帰ろうか」 嵌めていた指輪は消えたけれど、いつも通りの姉ちゃんだった。 お互い、それ以上は詮索しない。 しなくても伝わったからだと思う。 姉ちゃんは吾妻にお礼を言うと、俺を乗せて車で帰った。 *** 数日間の、家出ということで幕を下ろしたくて。 「コンビニのバイトと、着ぐるみのバイト受けようと思ってる」 「着ぐるみ?」 ちょっとだけ姉ちゃんとぎくしゃくしながら朝ご飯を食べて、駅で定期を買ってから大学に向かった。 そして一番に吾妻に報告しようとそれを伝えた。 「うん。近くのショッピングモールで土日だけ。まずは着ぐるみで色んな人と接してみようかなって思うし。コンビニは目の前で近いから」 「単純。……一緒に俺とまたデートクラブでバイトしてみたら?」 確かにデートクラブの時給は破格だし、コンビニのバイトがスズメの涙みたいに見えるけど、でもまずは自分で汗水流して働いてみようと思う。 「デートクラブはしない。夏目さんだけで十分だよ」 「もう会わないの?」 直球、ど真ん中ストレート! 遠慮せずに聞いてくれる吾妻は本当に、……良い奴だ。 「もちろん、めっちゃ会う! めっちゃ会いたいけど、今は我慢するよ」 むこうの問題が終わるまで、数カ月でも待つ。 「あ。でも10年とか20年とかはやだな」 「じじいには恋愛感情生まれないもんね。あ、それぐらいならもう聖は結婚してるかもしれないしね」 「そ、そんな意味で言ったんじゃないよ!」

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